Paris14日目(9月26日)

Paris最終日〜ジュリアン、PAUL、ルネ・サントワン、そしてプージョラン




ついに…出国の日。朝は再度ル・パン・コティディアンのブランチにするか迷ったが…シャトレの方にある ジュリアン julien に歩いて行ってみた。サンドイッチが美味しいとのことだが、残念ながらサンドイッチは少なく、 パニーニしかない。パニーニはプレスして焼き戻してくれたものだから、期待していたタイプの朝食にはならな かった。あぁ、最後にタマゴやトマトの入ったカスクルートが食べたかった…。


 


パニーニはトマトとチーズ、本格的に臭いプロシュートが入っていた。それは熟成された良い臭みだった。

レジ横にあったプチレザン。かなりルックスは美味そうだが、やっぱりそうでもなかった(笑)。 ヘーゼルナッツも入っていた。これらを朝の光がまぶしいレアルの広場のあたりで食べる。 公園で食べるというシチュエーションはこれまでも何回かあったが、格好の鳥のターゲットとなる。たいてい鳩だが、 すずめもよく寄ってきたし、今日はなんとカラスだった(怖い!)。特にパンを食べている私は格好のカモだったの だろう。


パニーニでちょっと不完全燃焼だったので、PAULで小さいサンドでも買いたくなった。最後だし、ParisでのPAULを 食べておこうと思ったのだ。しかし朝はハード系とヴィエノワズリー類ばかりで、サンドイッチは全くない。PAUL だけで3軒はしごしてみたが、どこもない。今頃気が付いたのは、意外に朝、サンドイッチが並んでいるパン屋は多 くはない、ということだ。やはり朝は甘いパン(クロワッサンとか)をカフェオレと一緒に食べるのが普通なのだろ うか?


 


その代わり、PAULの本店で立ち食いだがリュバーブのタルトを食す。PAULの本店は、建物の都合上白地に黒文字の 屋根となっている。黒塗り白抜き文字ではなくても違和感はあまりない。箱は日本のものと同じ(袋などは日本の方 が立派な素材だ)。





リュバーブが上部に見え隠れし、所々黒く炭化している。リュバーブはまるでチェリーのように 赤く、酸味が強い。アプリコットのナパージュがかかり、生地はカスタード味のクラフティ状態になっており、 なんともウマイ!! リュバーブ独特の極端な酸っぱさが口一杯にあふれるが、かえってそれが梅干しを食べたとき のような唾液分泌を促進(笑)、それをカスタードがまろやかに和らげる。日本でもリュバーブを使ったデニッシュや ケーキはたまに食べることができても、ほんの申し訳程度にしか入っていない。こんなに堪能できたのは初めてだ。 タルト生地自体はカイザーのタルトモンジュには及ばないが(あれは美味すぎた…)、PAULはやっぱり良い。 日本でも食べられるタルトノルマンディ(アーモンドのタルト)も超ウマイ。



PAULは言わずと知れたフランスのチェーン店のパン屋さん。Parisでは本当によく目にした。 PAULが近くにあるところでは、実によくサンドを手にして歩き食いしている人を見かけた。 ほとんどの店で行列ができている。いくらたくさん支店があろうとも、その魅力はあせることはない。 ついつい店があれば覗いてしまう。それに比べると、他のファーストフード店のすさんでいることといったら。 PAULは日本でもこれからますます増えるだろうけれど、味が落ちる心配はないだろう。 Parisでこんなに増殖してもそのクオリティは保たれているのだから。本当にPAULが日本で食べられるようになって 心から嬉しく思う。Parisが恋しくなったらPAULへ行こう。





お次はルネ・サントワン Rene Saint-Ouen のバゲットを探しにアシュマン通りへ。大統領御用達のバゲットを 作るというこのお店、想像していたのとは違って、ものすごく庶民的…というか、子供っぽさを感じる町パン屋 さんだった。エッフェル塔や人形をかたどったパンがたくさん窓際に飾られていたが、お世辞にもおしゃれとは いえないお店。しかし、マダムはとっても感じがよかった。ここではドゥミバゲットとセイグル・ノア・エ・レザンを。


 


・バゲット

参考資料の写真(炭化したかのような真っ黒なバゲット)とは全然違ってごく然普通の焼き色に見えるが…。 食べてみると、なるほどわかった。ものすごく堅いのだ。この手の色合いにしては、類なきハードさ。 色は薄くてもクラストはとても厚くて、クラムの柔らかさにはなかなか到達しないほど。とても香ばしいクラストで、 確かにこれは焦げマニア向けの味。この香ばしさは非常に美味しい。縦カットして気泡をみても、見事。むしろ、 外見よりも内側の気泡を見た方が美味しそうに感じるかも(…ってマニア向けだが(笑))。 でもやっぱり私はクラムにもしっかり甘みがあるタイプが好きかも。


・セイグル・ノア・エ・レザン

これはごくオーソドックスに美味しい。正直言ってインパクトは欠けるけれど、レーズンが密集している部分も あったし、くるみが不味くなかったのが救い(あまりにハズしたくるみパンが多かったこのParis(笑))。





最後はプージョランへ向かう。プージョランは最終日にはまた来ようと決めていた。最終日、つまり日本に持って 帰る、ということ。メトロの駅を探して路地を南下していった。するといつのまにかシャンゼリゼ通りまで出てきて しまった。Parisに来た日よりも並木は黄色く染まって美しい。ここまで来たので歩いて行くことにした。 何度か歩いたドミニク通り。プージョランでは目に付いたよさげなものをある程度セーブしつつ購入 (せっかく持って帰っても冷凍庫に入りきらないから)。サブレは3袋も買った。私の前のムッシュが紙袋に 2袋くらいどっさり買っていったので、私のときも「またか!」みたいな感じだったよう(笑)。 これ以上荷物は増やせないのでリンゴピュレは断念。





・タルト・オ・ポンム

一気食いしちゃう絶品もの!! 柔らかく煮たリンゴのピュレのメリハリ効いた甘さと言い、塩気の効いたタルトと 言い、なんというか、非の付けようがない。1.8ユーロというのも安い!!


・パヴォとセザムのバゲット

これは超個性的な一品だった。まず、とてもコショウがきつくて、スパイシーなことに驚かされる。ケシの実よりも、 ゴマよりも味が目立っている。正直言うと辛すぎて舌が疲れる。でも、やはり底面のなにも付いていない部分はさすが に力強い旨みでとっても美味しい。ここでしか食べられない、という意味ではこのセレクトは正しかった気もする。


・プチカンパーニュ

どこがプチ? という感じの一人用にはちょっと大きめのカンパーニュ。店を出たあとで「コンプレにすればよかった …」と思ったのだが、これは帰国後にじっくり食べよう。(*帰国後、これをじっくり食べた。本当に粉の風味が強く て、酸味すらも覆す旨みだった)


・いちじくとくるみ

2本購入。やはりこれはインパクトがあったから日本に持って帰りたいと思ったものだった。このわけのわからぬ、 言葉に説明しがたいクセ(臭さ)が美味しいのだ…。


・アプリコ

強烈な甘みではあるけれど、PAULとかカイザーのとかとは違ってこれまた独特の甘み付けをしている。 美味しい…と思う。


・サブレ

オレンジピールとレーズンのものと、ライ麦のカラメルっぽい黒いものと2タイプくらい入っている。 オレンジピールとレーズンのサブレ、これは…これは本当に美味しい…! なるほど評判になるだけのものだ。 オレンジ&レーズンは甘さがまさに適切。昔ながらの奇をてらわないオーソドックスなものなのに、今まで食べたこ とのあるような味なのに、初めて食べるような美味しさ。表面のじゃりじゃりっとした砂糖の甘みすら計算されてい るかのようだ。ポワラーヌで食べたサブレ(袋売りになっていてお土産の定番らしい。試食させてもらった)も昔な がらの素朴な美味しさだったが、このプージョランのは「ありそうで、ない」美味しさだった。間違いなく次回もこ れは買いだ!


結局プージョランという店にはいろんな新しい味との出会いを経験させてもらえた。他の店のパンたちは 「これは日本でもある感じ…」と思わされるものが多かったが、アプリコにしても、ダマンドにしても、 これまでに味わったことのない独特のクセや臭みがあった。もちろん、このクセ臭みというのは賛辞である。


部屋に戻ったのは1時半前。プージョランあたりからバスに乗って、間違って反対方向へ進み、 エッフェル塔の前まで来てしまったので時間がかかってしまったのだ。それでも、最後の最後に眺めたのが エッフェル塔、というのは私らしい。





部屋ではルネ・サントワンのバゲットに、残り物のハムとイチジクとエシレを乗せてタルティーヌを作った。 ハムはあまり良いものを買わなかったのもあって、さっきのジュリアンのハムはつくづく美味しかったんだなぁ と振り返る。しかしイチジクは甘くて美味!! ミオのフィグジャムにも、こういう味を期待していたのになぁ(笑)。


大急ぎで荷造りをした。3時前にはどうにか出られたけれど、1週間滞在したこの部屋の写真を撮るヒマはなかった。 最初はこの暗く、傾いていて、窮屈で、騒音が激しくて、なんか臭う(笑)この部屋がとてもイヤだったが、 住めば都。だんだん愛着がわいていた。やはり立ち去るときは胸にぐっとくるものがある。…かといってまた泊 まりたいかといったら…non(笑)。


あまりに重たいスーツケースを必至に階下へ降ろし、タクシーを駅前でつかまえる。最初の一台はアジア人運転手で、 "Gare du Nord"と告げると「ダメダメ(近すぎるから!)」と断られてしまった。確かに荷物さえなけりゃ北駅は 歩いて行けるのだが…腹立つなぁ!! ようやく捕まえたタクシーでどうにか北駅へ。6ユーロ程度で済む。





北駅でRERに乗り、 シャルルドゴール空港へ。この空港はなんともユニークなデザインだ。チェックインを早々にして しまったので免税店をふらつく。余ったユーロを必死に使いきらなきゃとか、なんか最後までお土産を買わなきゃ、 というのは、観光客の共通の心理のようだ(笑)。これでParisともお別れ…。


長居12時間のフライトは本当に疲れた。疲れたなんてものじゃなく、苦痛だった。しかし、やはり機内食で食べた 牛丼は美味しかった…あぁ、和食の味。私の場合は主食にパンばかり食べている人間なので、たとえ日本食が恋しく なっても、ご飯が恋しくなると言うよりは「あんパン食べたい…」とか「ペリカンの食パンが食べたい…」とか そういうものだ(笑)。でも、なによりも和総菜が恋しかった。油抜きの醤油だしのおかずが食べたかった!!





こうして、長くもあり、短くもあった2週間のParisパン滞在は終わった。仕事や留学しているわけでなく、 観光ばかりで一都市2週間滞在というのはもて余すくらい長い。しかし、「パンを食べる」という目的のもとには、 2週間というのはあまりに短い。朝昼晩バゲットばかりを食べ続けたとしても20本程度しか食べられないだろう。 どんな店でも、バゲットの美味しさは本物だった。適当な店で適当に選んだカスクルートの美味しさにはため息を つかされた。ひとつの店の中での味の格差は激しいことも特徴的だったが(バゲットはウマイがくるみパンはマズイ …とか)、どんな店でも食事パンのレベルは一定レベルを保っている気がした。何世紀にも渡って受け継がれてきた パン文化、そして職人の腕だけではなく「粉そのものの良さ」という決定的なアドバンテージは、日本が到底かなわ ない部分だと思う。それに、チーズや加工肉、ワイン、リンゴなど、パンを安く美味しく食べる環境があまりに整って いる。帰国後は、「パンさえ美味しければいい」と思ってた私の食卓に革命をもたらすに違いない。


しかし、その2週間のパン三昧のなかでもっとも強く感じたのは、日本のパンをめぐる環境はここ数年で格段に レベルアップしたということ。Parisに来ても、「こんなの食べたことがない!」と思うことはあまりなかった。 それよりも日本のパン屋さんの創意工夫のすばらしさ。バラエティ豊富であれこれ悩まされながらじっくり選べる 楽しさがあること。一個一個のパンの造りが丁寧ということ。Parisでパンを食べながら不謹慎ながら私は日本のパ ンがすごく好きだと思った。日本のパン屋さんがとっても好きだと再確認ができた気がした。


これから先、何度もParisのことを思い出すだろう。Parisで味わったパンやそれらを囲むものたちを思い出すだろう。 それらが自分の中で風化しないうちに、再び帰ってきたい。そのころにはParisのパンはどうなっているのだろう、 日本のパンはどうなっているのだろう。私はパンとどんな「関係」を持っているのだろう。今からとても楽しみであ る。

BEFORE DAY