2日目後編:グランドキャニオン到着…サンセットの行方

シーニック航空の空港ロビーにて


グランドキャニオンはラスベガスから飛行機で1時間。 いくつかローカル航空会社があり、各社それぞれがツアーを催行している。 私はどうせ行くなら、サンセットも見たいし、サンライズも見たい! そうなると、一泊二日のツアーに参加するしか手がないのである。 私はシーニック航空という会社の現地ツアー(日本人ガイド付き)に参加した。 一人参加だとツアー代は割り増しで380ドル程度(食事別)。 ホテルをチェックアウトし、荷物を全部持って空港へ向かう。


正午、ホテルに送迎バスが来た。空港についてチェックイン。 日本人のお兄さんがカウンターでツアーの説明をしている。 列を待っている間、他のお客さんへの質問に、意外な言葉が。 「本日山頂は雪が降っています」と。 な、なぬーー?! 5月のグランドキャニオンは、 もう雪なんて降ってないと思っていたのに?! それを聞いてキャンセルをする人も何人もいて、 とほほ顔でラスベガスへ戻るバスに乗り込む人たち。 あらら…私もそうしようかなと一瞬迷いが生じたが、 それじゃなんのためにラスベガスに来たんだーっ。 当然、参加。一泊分の荷物だけもって、 他の荷物は全部空港に預けて明日ピックアップする (荷物預かりがなかったらホテル連泊するはめになっていたのだからありがたい)。


周りを見ると、一緒のツアーらしき日本人が十数人いる。 そのうちの一人の女の子が…どえらく軽装!! ぺったんこのサンダルに、キャミソールと薄いカーディガン、 7部丈のパンツ、まるでリゾートスタイル。グランドキャニオンにソレで行くのか…? 人ごとながらその丸腰っぷりには本気で心配(半ば呆れて)してしまう。





フライトはだいぶ遅れていた。 ほんの十数人しか乗れない小さなセスナ機 (というか、セスナって乗ったことないんですが…)。 やはりここは観光地。どこにでもいるけど、強制的に写真を撮られて、後で高い値段で売る商売カメラマンが、 機体の前でパイロットとともにツーショット写真を撮らさせる。 そういや一人旅行だし全然自分の写真が撮れないのはいつものことだが…。 15ドルも払ってられるか、買わないぞと商売人には冷淡なことを思いつつもとりあえずスマイル(笑)。



コックピットを覗きながら、さぁフライト!


 



はっきりいってこれは怖いぞ。乗り込むとぐらぐら機体がゆれる…。 私は一番先頭、つまりコックピットの真後ろである。 操縦士が2名、英語でガーッと説明するが、私はやっぱりよく聞き取れない。 なんとなくわかったのは、揺れるので具合が悪くなった人は”gerogero”袋を使ってね、 ということ(笑)。gerogeoroという日本語はわかるのね、操縦士さん(笑)。




4か国語のガイドが流れるヘッドホンをつけて、さぁフライト! プロペラがペロロロ…と回り出す。どーにも心もとないけどもう引き返せない(笑)。





小さな機体はラスベガス上空を横切る。 ストリップ通りの巨大ホテルたちがちっぽけな模型のように見える。雲が近い!





機体が傾くと窓にはまるで地上が平面のように写る。 揺れることは揺れるけれど、酔い止めをしっかり飲んだので大丈夫。 あれだけ朝食を食べたけれどさすがにもう14時過ぎているので腹ぺこ(笑)。 着いたら何か食べられるんだろうか?








上空はものすごく寒い。私はアンダーシャツ、 カットソー、ニットを着ていたけれどそれでも寒い。 薄いブルゾンを持って来たがそれを羽織ってもなお寒い。 ふと、後部座席に乗っているあの丸腰の女の子のことが気になる。 グランドキャニオンまでの景色は、砂漠と山が続く。 しばし景色を眺めていたが、後半はほとんど眠っていた。 そして、目が覚めると離陸体勢に入っていた。



悲劇、グランドキャニオンは雨だった。


 


な、なんと…! グランドキャニオンはみぞれ!! 最悪の天候だった。滑走路から空港ロビーまでずぶぬれになりながら走る。 体がすっかり冷えきっている…。ト、トイレっ(笑)。

 

空港にはツアーバスが迎えに来ており、バスの中で宿泊先のロッジの鍵と説明、 そして弁当が配られた。ターキーハムとチーズがサンドされた超シンプルなサンドイッチとポテトチップとラズベリークッキー。 なんともアメリカンな弁当だ(笑)。とにかく猛烈に腹ぺこだったので一気に食べきる。 腹ぺこ…というのもあったけど、余計なもの(味付け)が入っていないサンドイッチはうまい(笑)。 それこそ、がつがつと食べた。サンドイッチがでかいので、ポテチとクッキーは封を開けずに残しておいた。 …これが後で非常食のごとく大いに助けになるとはつゆ知らず(笑)。






空港からバスで数分のところに、最初の展望台であるヤバパイポイントがある。 まずはそこからの眺めを見る…はずだったのに、悲劇にもなんにも見えない!! 真っ白なスモークに包まれて、見えるのはただ白いだけの空間(笑)。





ホントは目の前にこういう広大な渓谷が見えるはずなのにーー!!! ガイドさん曰く、「数時間前は晴れて見えていたんですけどね、大丈夫。 5分後には見られますよ。山の天気は変わりやすいですから」だと。 しかーし、タイムアップ(泣)。なーんにも見えなかった…。





じゃじゃん!

これがグランドキャニオンのサンセットだーーー!!


……お土産屋に貼られていたポスターを撮影しただけだが(笑)。


たとえ雨だろうとなんだろうとバスツアーは続く。

ガイドさんは「普段この時期は25度くらいの過ごしやすい気温なんですけどねぇ。 今年は異常気象なんです。○○年ぶりですよ、5月のこの時期に雪が降るなんて。 みなさんある意味ラッキーです(笑)」

わ、笑えない…。




次の展望台は、ロッジから徒歩10分くらいのブライトエンジェル。 ここに来る頃にはようやく小雨になっていた。少しずつ少しずつ、渓谷が顔を出して来た!





来たーー!! 見えた見えた!! 渓谷が見える!  川も谷も岩も、向こうの山も、見える見える!!!  うわーーん、本当に目の前にある!!  なんにも見られないまま帰るのかと半ばあきらめに入っていたのでこれは感動ひとしお…!!!





雲は完全には去ってくれなかったけれど、十分すぎるほど美しい。 緑色がなんてきれいなんだろう! 赤い土がなんてきれいなんだろう! あまりに広大すぎて目の前に広がっているとは思えない。とにかく、生まれて初めて見る風景だ。 あぁ、ここまで来てよかった…。



無料シャトルバスで一人旅〜サンセットを目指せ!


 



宿はMaswik Lodge(マズウィックロッジ)。 宿に関してはまったく期待していたなかったのだけど、これがまともまとも、上等上等!  天井が高くてバルコニーも付いている。 窓の開かないラスベガスのホテルよりもいいかもしれない。


とりあえずまだサンセットには間に合う時間。急いで支度を整えて部屋を飛び出した。 今日は雨につき、現地のサンセットツアー(英語ガイド付き)は中止だと言うじゃないか。 ツアー参加者の中高年の御夫婦などは、諦めて部屋でゆっくり休もうなどと話しているようだった。 だから、私はバスで自力でサンセットを見に行く!!





地図を頼りにバス停を探す(ほんとはロッジの前から出ていたんだけど(笑))。 雨はもうほとんど降っていない。 雨の匂いに紛れて、牧場の匂いがする。おぉ、ラバさんだっ! 頼むよ、夕陽が見られることを祈っててよ!


ロッジから一つ先のバス停で無料シャトルバスを拾う。 とりあえず終点のマーサポイントまで乗ってみた。 何人か乗客が乗り合わせており、日本人も数人いた。 ここは(後で調べたら)夕陽のポイントだったらしいのに、 そこからさらに乗り換えて別のポイントまで行ってしまったのだ。 …なんでだろう(苦)、…たぶん、同乗していた日本人の人たちとは別のところへ行きたかったからかもしれない。 一人でサンセットを見ることを試したかったからかもしれない。


女性ドライバーが運転するバスは、林を抜け、終点のyaki pointまで到着した。 乗り合わせていたのは、何語か聞き取れないけれど、 大きな三脚を担いだどこかの国のカップルと私だけだった。 終点に到着。「次のシャトルバスが戻って来るのは20分くらい後ですよ」と言葉を残し、 女性ドライバーのバスは引き返して行った。 髪の毛が全部持って行かれるんじゃないかと言うくらいにものすごい突風が吹き荒れていた。 風が冷たい…!


 


風が吹き荒れて、下を見下ろすと落ちそうなほど!  雲は多く、渓谷は淡いグレーと青と紫に染められていた。 さっき眺めたポイントよりも、もっと殺風景な、寂しい場所だった。 不思議と、さっきよりもずっと実感がわく。 グランドキャニオンに来ているってこと! たぶん、この突風と風景の色が不安をあおるからだろう。 「世界の果てにいる」ことを思わせた。言葉もろくにわからないけど、 私はここでひとり、遠い谷底を覗き込んでいる。…ぞくぞくしてくる…!





ぞくぞくしながらこんなこともしてみる。手すりのない崖っぷちで足を放り投げてみる。 ひゃあぁぁ…。私って…ひょっとしてMなんじゃなかろうか(笑)。





例のカップルとは離れた、もっとぎりぎりの所まで降りて、そして腰かけた。 しばらく、崖っぷちに風と戦いながらじっと岩のように、向こうの岩壁を、谷底を眺めていた。 よく、旅行は日常を忘れて気分転換に…というけれど、本当だ。 ほんの何十時間前には、私は東京のオフィスで「どうでもいいこと」にバタバタしていた。 …もちろん、東京のあのオフィスでは「どうでもよくない」大事なことなんだけど、 ここでは本当にどうでもいいちっぽけなことだった。…そりゃそうだ。 この風と谷の中では私自身がとてもちっぽけな存在なのだから。 私はそうして、じっと岩のように、この「崖っぷち」で佇んでいた。





バスが来る少し前に、ようやく太陽が雲の隙間から見えた。 夕陽ははるか向こうだ。さっきバスを乗り換えた辺りなら、きっと美しいサンセットが眺められたのかもしれない。 明らかにこの場所でサンセットを見るのは間違っていたんだろう。 けれど、私はこのサンセットで十分だった。負け惜しみでもなんでもなくて。 こうして、周りに誰もいない、この風と、谷と、この時間を私は独り占めできたのだから。





バスで引き返し、さらに乗り換えて、ロッジに着くころにはもう辺りは真っ暗だった。 19時を回っていた。部屋に戻る前に、ロッジの食堂で夕食を食べよう。 ロッジにはフロントと売店、カフェテリアがある。スキー場のカフェテリアと同じように、 セルフサービスだ。温かい軽食の他に、ベーグルやマフィン、サラダなどもある。 このロッジに宿泊する前に、ネットでいくらかの情報を得ていたが、 そろって「食事は期待するな!」だった(笑)。…えぇ。もう今回の旅は全然食事は期待していないんです(笑)。





結局、私が選んだのはサワードゥを器にしたベイクドビーンズとサラダ。 サワードゥはサンフランシスコで食べる予定だった、酢酸臭い食事パンである。 …なんともなんとも…(苦笑)。 このサワードゥは…ピンっと膜の張ったようなヒキがあり、それこそベーグルのようにもちもちしている。 が、ライ麦パンのような酸味(その後にじわじわとコクがわいてくる)とは違って、 酸っぱいままで、そのまんま酸っぱい。酢だ!(笑) 酸っぱいままで行き場がないままほったらかしにされる私の味覚(笑)。 …焼けば美味しく食べられたんだろうか? もしかしたらこの塩っぱいベイクドビーンズではなく、 他のもの(それこそクラムチャウダーとか!)と合わせたなら美味しく食べられたのだろうか? あー、、そんなことはわからない。少なくとも事前情報ははたして事実であった(笑)。


カフェテリアから部屋までは真っ暗な外を歩いて行く。 …明日の朝は懐中電灯がなきゃ、歩けなさそう。100円均一で買っておいた懐中電灯を持ち歩こう。 部屋に戻り、風呂に入って芯から冷えた身体を温めた。ホントに寒い夜だ…。 一日分しか持ってこなかった靴下を手洗いした(結果としてこれは大失敗だった!)。 明日の朝に目指すべきポイントを確認してからすぐに眠った。 一人のロッジでは、眠ること以外にすることがない。 それで全然構わない。ぐっすり眠ることが今は一番やりたかったことなのだ。





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