80.07年冬 vol.1ラストの日 〜和歌山GAMA#7〜



1月下旬。

一通の葉書に書かれた衝撃的な知らせ。


あのGAMAがあの場所からなくなる…。




青天の霹靂だった。

頭の中で血管がどぐんっと鈍く弾けるような

今でもあの時のショックをリアルに思い出せる。

よく読めば、「閉店」ではなく「移転」であることはわかるのだが

GAMAがなくなっちゃうわけじゃないのだが

あの場所じゃないGAMAって…

ごめん、ちょっとまって。


…ああ! 頭が混乱してよくわからない、

でも

でも

ひとつだけ確かなことは

…あの場所が1月いっぱいでもう最後だから

行かなきゃ!!!

行かなきゃ!!!


とりあえず今週末はもう動けない。無理だ。

ならば…もう来週しか行くチャンスないじゃないか。


昨夏のよもぎメンバーに声をかけ

和歌山での営業最終日に一緒にかけつけることになった。


たぶん最後の日だからたくさんの人が来るだろう。

この冬だから、中条でまったりなんてことは無理だろう。

一緒に行くよもぎ組の一人は車。

せっかくだから乗ることもありなのだけど


やっぱり、最後だって私はあの道を歩きたい。

そうじゃなきゃ、終われない。

いや、閉店じゃないから終わりじゃないのか、

でも終わりな訳で


あぁ!!! もうよくわかんない!!!

とにかく、歩く!!!




これまでのGAMA@和歌山の歩くヒストリーはこちら…


04夏GAMA

05夏GAMA

05秋GAMA

06夏GAMA#1

06夏GAMA#2

06夏GAMA#3






御幸辻の駅からいつものように歩き出した。

この道を歩くときはいつも一人で

それは灼熱の太陽の下だったり

突然の雷雨の最中だったり。

思い出の詰まったこのお遍路ロード(?)を

今日はGAMAであの夏知り合った相棒と歩く。

もうひとり、私がGAMAに連れて行った相棒は後からクルマで追いつくはず。


初めて人と歩くこの道。

もちろん、私は「ここの曲がり角を曲がったら○○が現れてねぇ〜」

「まだまだ序の口! これからだよ〜」

などと、先輩風を吹かせてしまうのである(笑)。





今は1月だから全く暑くない(当たり前だ)

それほど寒さもない。

…いや、たとえ寒くたってこれがなきゃ始まらない(笑)

○○がなきゃダメだ、○○しないなら意味がない……


…もしかして、私ってどこか強迫観念強いんじゃないだろうか?!(笑)





ぷしゅーーっとお約束の麦汁を空けたころ、

ちょうど一台のクルマが私たちの横で止まった。

おおおー。もう一人が登場(笑)。

まだ歩き始めて15分だから、この先あと45分くらい歩くけど

悪いけど先行って待っててくれる?





私たちは荷物(ほとんどが今朝行った某Sュクレのパン(笑))をクルマに預け

ほぼ丸腰でウォーキングを再開した。おぉ、羽のように軽い?!





夏ならもっと鬱蒼とした茂みになっているのに

どうも寂しい。冬だからハゲ山のようになっているのか





そうそう、初めて来たときに、この子安地蔵の中に

パン屋があるのかと勘違いして、寺の中まで入っていったんだっけ(笑)。

ドラちゃんとドラミちゃん…じゃなかった、キティちゃんも

たぶんこれで見納め。


「夏はもっと鬱蒼としていてねぇ〜冬だから寂しいわぁ」

もう、なんかうざいほどに観光ガイド気分である(笑)。





うわ、なんかシュール…。

手しかないカカシ(笑)。

しかし、この道のりは不思議なほどに人に遭遇しない。

家はそれなりにたくさんあるのに、人と顔を合わさないのだ。





「初めて歩いた時、この薪をみて『ここか?!』と思ったんだよね〜」

どうでもいい解説は延々と続く(笑)。





駅から4つ目の看板。

これが見えたらそろそろ終盤だ。

この看板ももう撤収されちゃうんだよな…。

ひとつひとつ取り外すんだろうかなぁ…。

欲しいなぁ、この看板…。(笑)





寒さはほとんど感じることなく、二人で歩くとそれほど遠く感じない。

あの看板の山が見えたら、もう残りは10分を切っている。





ラスト看板、草が刈られた今ははっきり見える。

夏はこの看板すらももじゃもじゃな茂みに

隠されて何も見えなくなっているのに。

…もう、正真正銘なくなってしまうんだ。





駅からほぼ一本道なので、後ろからクルマに抜かされれば

だいたい「ああ、目的地は一緒だな???(=ライバルね?!)」とわかるのだが

意外とこの日私たちを抜かして行くクルマは少なく、

みなさんスロースターターだったようだ。

私たちが到着した時には、先にクルマで到着していた連れを含めて2組だけだった。

この寒空の下、いつもよりも遅い焼き上がり時間を待っていた。


1時間歩いて来た私たちはさわやかな汗をかいていたが、

…この汗があっという間に乾き、みるみる冷え出して来た(笑)。

ひょおぉぉぉ…なんで今日はこんなに寒いんだ?!





パンを並べる彼らが見える。

パンを待つ私たち。

塀から小屋までの距離が遠い。

正直、ものすごく長い時間に感じた。





私たちの後ろにはいつのまにかずらっと人が並んでいた。

パンはこの列に並んでいる人たちだけで

売り切れてしまうであろうことが簡単に読めた。


パンもそうなんだけど

それ以上に、この小屋ともお別れなのかとか

そういうことでいっぱいいっぱいだった。





今日は特に気合い入れてハッピーパワーいっぱいな

パンをがしがし並んでいた。

「ライビールショコラテ」とか「濃厚ペコリノロマーノ包み」とか

ビール仕込みのライ麦生地にグリュイエールとイチジクの入ったハート形のパンとか

(もう、書くだけで唾液分泌が、、、ひーっ)

どれもニィィ−ッとヒキが強く、パンを食べているというよりはパンを嚼んでいるという感じで

この日のパンはいつも以上に「エキス」に溢れたパンだらけだった。


後ろに並んでいる人もいるし

お値段的にもそりゃ無理だしある意味自制になる(笑))

「これが最後じゃないし」と自分に言いきかせ

新作ものと定番もの少しをわりと大人しい量で抑えた。

…こりゃあっという間に食べきってしまうだろな、儚い…(笑)





買わなかった時は一度もない、皆勤もののよもぎベーグル

思い出のよもぎ…よもぎ…

「しばらくよもぎベーグルのない世の中になる」

んだろうなぁ…うぅぅ、早くまた復活してくれないと…


小屋の入り口のところに、

お客さんからの花束が飾られていた。

このラストの金曜日も土曜日も駆け付けた常連さんで

そのこともひっくるめて彼らの心を熱くさせたお客さん。

私もこのお客さんのことは御縁で知っており、

GAMAへの愛情がものすごーーく溢れているのを知っていた。

他人とは思えず(笑)もしかしたら日曜日に会えるんじゃないかと思ったのだが

次の新しい場所できっと会えるに違いない…。





このスペシャル限定パンを、外でみんなで食べることにした。

スカモルツァ(というイタリアのチーズ)とバーニャカウダソースの

酒のアテパン!!!






冷たい風がぴぅぅと吹くたびに「ひぃぃっ!」と

悲鳴を上げてしまうほどだったが

外で食べて時間を過ごすGAMAファミリーたちの多いこと!

みんな酔狂、みんな最高?!

出してもらった石油ストーブ2台にそれぞれ張り付き、

パンを食べ、飲み物を飲んでいた。

寒いけど、最後だけど、みんないい顔してた。


この手のチーズ系パンはほんとは温めてから食べ直したいと思ったのだが

なんだかチーズとオイルの妙ーーーなひっぱりにぐいぐいと引き止められ

ものすごーーーく美味しく食べきれてしまった(笑)

こ、この唾液分泌系な旨味に対抗するには…酒です、酒ーーっ?!

GAMAパンを食べてると、ほんとに「酒呑みでよかったぁ〜」と思うのである(笑)。

でも…こんなクソ寒い時にまで無理に呑むことはあろうか?

しかし





本日のビィー−−ッル!!!

ドイツのカンナビアビール、ヘンプビアである。

そう、ヘンプと言えば「大麻」!!!

これがすごーーく旨い。フルーチーで旨い大麻。さすが大麻。

しかし寒いし!(笑)笑えないほどに寒い(笑)。


自分、無茶してんなーと思ったので、

ビールを半分くらい残し美味しいチャイにちょい浮気。

ビールをそのまま放っておいたら、この寒さのせいで全然ぬるくならない。

むしろどんどん冷たくなっていくという(笑)冷蔵庫入らずのオープンテラス(笑)。

これぞアイスビール





ビール片手に、

中条を見納めに…(寒)。


初めてここに来た時のことも

その次に来た時のことも

その次も、その次も

今でも鮮明に蘇る。

緑とせせらぎの音の中、

世界でパンと二人きりになる瞬間。


彼らの言葉を借りると「中条のない社会にしてしまってごめん」

…そう、あの夏は中条で過ごせる最後の夏だったんだ…

だから、あの夏はまさか3度も中条に来ることになったのかもしれない、

…あくまでそれは結果論だけれども。


ショック…だけど

この日は不思議にツラくはなかった。

それはたぶん、今がこの景色だったからかもしれない。

緑色がほとんど見えない、このセピアな枯れ木の中だったから

寂しさがフォーカスされないで済んだのかも知れない。


緑に溢れた中条だったら、私は泣いてたかも知れない。





パンの続き。

いつもカリンコリンの塩ミントフォカッチャ。

今日はいつも以上にやわらかくてものすごく美味しかった!!!

生地を口の中でゆっくり溶かす間に、

得も言われぬ「甘い」GAMAエキスが溢れてくる…

そこにニンニクや塩やミントの渋い香味付け





以前、クリスマス時期に通販して食べたことがあるショコラ冬バージョン。

少しビターなチョコレートがたっぷり入っているのだが

GAMAパンって、チョコ+生地の味では終わらない。

どこか酸っぱい果実のような甘い余韻がある。

(私はこれをGAMAエキスって呼ぶけど…説明になってないな、毎度(笑))





カシスとグラナパダーノ。

ほわんとチーズの臭みが香るかと思えばカシスの分かりやすい甘酸っぱさが。

これもよく説明できないけどなんかよくわからないけどめちゃくちゃ旨い(笑)

GAMAパンは、私からボキャブラリーを奪うのだよ、

生命力が〜とか、パワーが〜とか、酒のアテパン〜とか酔っ払いとか(笑)

そんな説明にならん説明しか出来ん、恐るべしGAMAパンなのである(笑)





なんと!!!

GAMAオープン時からのお客さん(男の子)が

作って来てくれたというタルト!!

自分で?! しかもいちごがこんなに!!!


GAMA姉さんを泣かせたタルト。

どれだけこのタルトが彼らを、

その場に居合わせたものたちの心を揺さぶったか

みんなで頂こうということで、図々しくも我先にと主役差し置いて

皆で指でちぎって食べたイチゴタルトは(笑)

ものすごーーく美味しくてホントに泣けた。涙が出た。


すごいよ。すごい。

このケーキも、

さっきの花束も、

こんなに寒い中、いつまでも立ち去ろうとせずに

何時間もオープンテラスでストーブの前で過ごすお客たちも、

……GAMA愛に溢れてる。

なんて愛されている店なんだろう。

他にこんな店、あるかな。ないよな。

あるわけない…!


これまで私はほとんどGAMAにはあえて

「ひとりきりになれるタイミング」で来たから

ここまでたくさんの人と時間を過ごし、

たくさんの「ハッピーパワー」を見るのは初めてだった。


一人で来ていたらきっと、ひとりセピアにひとり悲劇のヒロインに

勝手に閉店ムード盛り上げお涙セレモニーしていたに違いない。


ほんとに今日、この日に来てよかった

この場所に最後に来られたことだけでなく

こんなにGAMA愛を垣間見れたことが…。





この「窯」がたとえこの場所から別の知らない場所にいっても

きっとそこで新しいGAMAと私たちの関係が築ける。


「あくまでVol.1が終わるだけ、

たいしたことあらへん、

vol.2がちゃんとあるから続きを待っててや」


あの場所にこだわり過ぎるなってことだよね。

そういうことなんだよね、そういうことなんだよね。



熱い思い出をたくさんありがとう。

これが決して終わりじゃなく、新しい始まりだってことにありがとう。

GAMAが存在してくれていて

これからも存在してくれていて

ありがとう。





とっぷり日は暮れて、最後の最後まで私たちは残っていた。

去りがたくて去りがたくて

唇は紫になっても


そうそう、ひとつだけ悔やまれるのは

次回の「中条ステイ」のときに絶対絶対便利!! 役立つ!! と思って

買って来た台湾土産。それを実際に使うチャンスがなかったということだ(笑)

中条で使うのが夢だったのになぁ〜…。

むしろ粗大ゴミのごとく引っ越しの邪魔モノになったことと思われ

申し訳ない酸っぱさでいっぱい(笑)

あ〜あ、移転先も虫がうじゃうじゃいるところだといいんだけど(笑)





明日からまた仕事。

今日この場所で一日過ごしたことが嘘のように

ごく当たり前の日常に戻る。


「この世から中条がなくなった」

という事実から目をそむけるかのように…。



最終の飛行機で東京へ戻る帰り道。

不思議と心は穏やかで…今日という日が楽しかったからかもしれない、

これが夏じゃなくて冬だったからかもしれない。


心は次の場所での新展開に期待が広がっていた。

彼らが決めることについてく。

彼らがやることについていく。

そこがどんな場所であれ。

いつになろうと


そこが飛行機で行くようなところだろうと

船で行くようなところだろうと

水牛使うようなところだろうと(むしろ歓迎(笑))


いつだって私はGAMAのある場所に帰るから。


2007.1.28