72-2.8月最後の旅、西へ 〜東海道 関宿の町家と京都の町家〜



*旅の前半、72-1「名古屋編」はこちら



最初にお断りしますが、ESSAYのくせしてこの章ではパンは3個しか出て来ませんのでご了承クダサイ(笑)。



三重県亀山市、東海道の宿場町である関町。

町屋が立ち並ぶ宿場町めぐりは、私の18きっぷ旅の中では欠かせない。

山に囲まれた静かな駅の横に広がる黄色の稲穂。

懐かしい日本の「田舎」の風景の中で、

古き良き時代を残した地区を散策した。




関宿の町並みは駅からほど近い。

17時49分の電車まで2時間弱。限られた時間の中では

この近さがとてもありがたかった。





今回の来訪の目的のひとつだった「而今禾」さん。

決してパンを目当てというわけではなく、

その佇まいに触れたかったのである。





町屋を改装し、ギャラリー兼カフェとして開放しているが、

カフェは夏期休暇中でギャラリーのみの営業だった。

それを事前に知ってはいたものの、入り口の扉が閉まっていると少しためらう。

恐る恐る引戸を開け、中に入ると、器が並べられていた。

個展を開いているようである。





アンティークの雑貨も買うことができる。

ただ、商品…というのとは違い、そこに自然にあるものに

値札がたまたまついていた…みたいな感じで

こういう年月を重ねた道具を使いこなせたらなと

憧れるような気持ちで拝見した。





家屋の奥、本来はカフェであろう離れにお邪魔すると

お抹茶とお菓子を出してくださった。





開け放した扉から、秋を感じさせる風が部屋の中を抜けて行く。

なんて自然な涼しさなのだろう…。

オーナーのこだわりが細部にまで行き届いているから

背筋がしゃんと伸びる。

それと同時に、心が和らぐ空間だった。





こちらのカフェでも使う器の作家さんが昨年6月に亡くなられたとのことで

御遺族や、縁ある方々の尽力で個展を開いているという。

(この画像の器は、お弟子さんたちの作品で買うこともできるが、先生の作品は非売)

ひとつひとつの器をじっくり拝見した。

こういう器が似合う、使いこなせるオトナになりたい。

…オトナになるって、今からでは手遅れではないだろうか。





屋根裏のアンティークな雑貨たちは比較的

「これなら私にも使いこなせそう」なものもあり

それでも眺めるだけの、

それでも十分豊かなものをいただいたような

そんな時間だった。


さぁ、町並み散策を続けよう。





宿場町の散策はどこまで歩いても飽きることがない。

一軒一軒歩くごとに、気をひく昔のなごりを見つけられるからだ。

それを、大袈裟でもなんでもなく「当たり前の日常」として

生活をしている住人の人たちを尊敬してしまうのだ。





通り沿いの民家から出て来たおばちゃんに突然話し掛けられる。

目の前にいきなりバッタのような緑色の虫を突き出し

「これ、ツユムシっていうの。知ってる?」と。

「(ひえぇぇ〜)し、しりません」


私に「赤ん坊を抱かせるかのように」譲り渡そうとするおばさん。

ひえぇぇ〜。さすがにそれは拒絶した。

いいっす、いらないっす!(笑)


「それ、生きてるんですか?」

「もちろん」

おばさんはツユムシを指で掴みながらどこかへいってしまった。

久々にハエとか蚊とかゴキブリ以外の虫(?)を見た。








一軒の古い薬屋さんの前で足を止めた。

アンティークなクスリをガラス戸の内に飾っている。

本物の薬屋…かと思いきや、とてもじゃないが、時代が違う!

昭和どころか、大正時代とかのクスリまで並んでいるではないか。





30代半ばくらいのオーナーらしき男性が声をかけてくださった。

「どうぞ中も見て行ってください」


どうやら、クスリ屋のギャラリーのようである。





中に入ってみてあっけに取られたのは、

なんとまぁこんなに保存できたな、集められたな、というほどに溢れかえった

昔のクスリ、雑貨、生活雑貨、装飾品…!!

驚いた。古くは明治のものもあるようなのだ。

(画像を載せるとキリがないのでここでは割愛するが、ぜひ関に行った時は覗いてみて欲しい!)


さすがに世代が違うので「懐かしさ」よりは「新鮮さ」を感じる。

昔のデザインは、色合いもはっきりしていてなんてかわいいのだろう!


もっと驚いたのは、アンティークショップか、ただのコレクションかと

思われたこの雑貨はすべて、この家にあったものだというのだ。

去年まで、このお兄さんの祖母がひとりでこの薬屋をやっていたが

亡くなられた後に家の整理をしていたら出てくる出てくる、

いったいいつの時代のものなんだというものが。


「昔の人はモノを捨てられなかったから、たまっていく一方だったみたいで」


そう、お孫さんであるお兄さんは語ってくれた。

おばあさんの思い出の品々を展示して、自分もここに現在住んでいるそう。

ゆくゆくはお茶を出せるようなカフェもここに開きたいと言っていた。

最近、町家での生活に憧れ、移り住む若い人が増えているそう。


でも、こういうパターンもあるんだなぁ…。

なんだか、少し胸がジンときた。





小さな女の子が母親に「ラムネ飲みたい」とせがんでいた。

え? ラムネ? あぁ、ここにはラムネが売っているのね?

じゃあ私もください、これを飲みながら、もう一散策してきます。

そしてまた瓶を返しに戻って来ますね。


小さな女の子が私に聞いて来た。

「このラムネのビー玉、取れる?」

「それはね、取るのがとーっても難しいんだよ。お姉さんには取れないよ」


こんな小さな女の子でも「瓶のラムネ」を普通に飲んだことがあるんだな。

古き良きものって、変わらないんだな。





ラムネの瓶を片手に、ビー玉がカランコロン鳴る。

薄暗く灯りが灯り出す。





裏道を通ると、表通りとはまた違った、別の「懐かしい日本の風景」があった。

もっと生活臭のある、人々の暮らしがそこにあった。

泣きそうなほどに懐かしい日本の風景。

都会生まれ、都会育ちの私なのに、なぜだろう。


日本人の遺伝子なのだろう。

山と田んぼと夕暮れにせつなさを覚えながら

「おうちに帰ろう」

なぜだろう、そう焦る気持ちが湧いてくるのだった。


でもまだ私の旅は終わらない。

駅に戻り、ホームで蝉の鳴き声を遠くに聞きながら電車を待つ。






関から加茂までの関西本線は、2両編成のローカル線。

なのに意外と混雑していて乗り換えの加茂までは30分くらいずっと立っていた。

休みなく歩いていたのでカラダには堪える。

でも立っていたからこそ、山奥を走る車窓からの風景を眺めることができた。

座っていたらそれすら眺めることなく眠りについてしまったに違いない。





加茂から草津まで、またローカル線に乗り換える。

ようやく座れた。あぁ、もうサンダルを脱ぎ捨てたい(笑)。

足を伸ばしてボックスシートにカラダを横たわらせる。

あぁ、18きっぷ旅。






今夜泊まるのは、当初は大阪の新今宮の激安宿の予定だった。

(過去にも泊まったことがあり。普通のお嬢さんにはお薦めしませんが(笑))

しかし「気になる宿」を見つけたので、急遽京都へ泊まることにしてみたのだ。

草津からは新快速で京都。

到着したのは19時半。

思ったよりも早めの到着である。

重い雲が広がっていた。雨はなくてもずっと雷が鳴り響いていた。


宿に寄る前に、恒例のパン発送(笑)。

いつもの京都駅前クロネコ営業所に駆け込みクール宅急便を出す。

「あの、ついでで申し訳ないんですけど、ここの宿の場所、わかります?」

地図を印刷してくるのを忘れたので、営業所の人に聞いてみた。

駅からそんなに遠くないはずなのだが…。


営業所のお姉さんは、奥からドライバーをわざわざ呼び出して来て(笑)

親切なドライバーさんは詳細な地図を持ち出して

○○町なら、この辺りだと思うけど、聞いたことがないなぁ」

ちょっと話題作りに振ってみただけだったので

あまりに真剣に探そうとしてくれている彼らに、逆に恐縮してしまう私(笑)。

「あ、もう行ってみて探しますんでいいです」なんて言えません(笑)。

さすがは宅急便のドライバーさん、タクシーよりもきっと詳しいので

道を聞くなら営業所へどうぞ、だ(笑)。






今夜の宿は、ドミトリーである。

京都駅から歩いて数分、町家を改装したゲストハウスなんだそうだが

見つけたときには驚いた。

こんなゲストハウスがあるなんて…?!





まだ29歳の青年が、去年開いたゲストハウスなのだが

自分で町家を改装し、徹底した手作りで築いた「日本の宿」だったのだ。

宿泊費の安さ(3000円)に惹かれたとはいえ

こんなにセンスのいい、今時の町家カフェ風の宿とは。





もちろん、ドミトリーなので男女別の相部屋。

かつてはユースホステルや相部屋の民宿に慣れていた私だが

久々のドミトリ−である。





共同のお風呂がまたユニーク!

膝上から胸の辺りまでしかない入り口で

まるで空き地の土管の中に入る時のような体勢でくぐらなければならない(笑)。

とりあえず荷物を置き、シャワーを浴びてから夕食にでかけることにした。


町家の玄関に一番近い座敷は宿泊者みんなの雑談部屋。

もう、すっかり我が家のようにくつろいでいて

何日も一緒に暮らしているような様子だ。

とりあえず、まだ飛び込んだばかりの私はクールにクールに

「今夜はとりあえずご飯食べてシャワー浴びたらすぐに寝よう」

そう決め込んで、外に出た。



京都の夜…。

行くべき、行きたい店は2軒しか私は思い付かなかった。

あの幽霊屋敷のような、パンの美味しい、奇跡の時が流れる町家カフェ

つい先日行ったばかりだけど、夜の時間も過ごしてみたい、水餃子の美味しい下鴨のカフェ


ところが、どちらも22時までだから、行っても1時間あるかないか。

うーむうーむうーむ…。


悩んだあげく、私が行ったのは……




ラーメン屋である(笑)。



実は今月初旬に、所用で京都に朝到着したときに、朝飯にと思って

駅近くのラーメン屋に行ってみたが臨時休業で玉砕(笑)、

DIARY2006/8/2を参照)




ラーメン屋は二軒並んでいるが、手前は以前来たことがある。

こっちはあえて選ばず、奥の店にしてみることにしたのだ。





実はこのラーメン屋の名前。

私の勤める会社(東京)のすぐ側にあるのだが、そこは「神戸ラーメン」。

え? でも京都でしょ? ここが総本山なんでしょ?

ラーメンに詳しい友人に聞くと、どうやら別物らしい。

あぁ、なるほど、こっちが「本家」なわけね(笑)。ややこしいな。





私以外の客は、なぜかカッポーしかいない(笑)。

なぜ? 寂しくなるじゃんよ(笑)。

これが飲まずにいられるか?!(笑)





ミニラーメンなるものがあって助かった。

テンコ盛りのネギの下には、チャーシュー。シンプルな醤油ラーメン。

辛すぎず、実に飲みやすいスープである。

浮いたラードが麺に絡んで旨い。


…しかし、かつて食べた隣のラーメン屋と記憶ではかなり同じような味に思うのだが。

しのぎを削るこの両店の関係ってどんなんなんだろう。

…って、私はパンオタよ!(笑)






ビールを買い(まだ飲むか)宿に戻る。

シャワーを浴び、部屋着に着替え、髪を乾かし、すっぴんのままで

みなさんがくつろぐ座敷に顔を出してみた。


オーナーの青年は、どんな客がきても

まるで昔からの知り合いかのように、

誰でも受け入れ、誰にでも受け入れられるような人だった。

私も人見知りしない性格とはいえ、いともあっさりと打ち解けてしまった。


彼は、いろんなところを旅してきたようだが、

旅が好きな訳ではなく、「いろんなところに住むこと」が好きなんだそうだ。

道産子であるのに、京都の町家宿のオーナーになったのも

京都に住みたかったからだという。

彼自身もここに住み、お客さんと一緒に「住む」。

お客さんを優先するから、自分の寝床は定まっていないという(笑)。

今夜はこの部屋で、と、日によって転々としたり、

満室のときはカプセルに泊まることもあるらしい(笑)。


…だからこんなに居心地がいいんだろう。

町家を改装したカフェ、なら最近いくらでも増えているけれど

宿を開き、お客さんと一緒に「住む」なんて、

…よっぽどの人好きじゃないと無理だと思うのだ。



本当は夕べもほとんど寝ていないのでさっさと寝よう、寝るだけの宿、

そう思ってここに来たのに…。

これは思い掛けない、嬉しい誤算だった。


数日前から宿泊している人、

今夜からの「新入りさん」関係なく、

ここでは「自分の居所」を見つけることが容易だった。

自分の旅の話、相手の旅の話。

年齢も、住んでいるところも、性別も、国籍も(たまたまその日は外国人はいなかったが)

垣根なく、そこに居心地のよさを見い出していた。



昼間も、宿場町で町家をいくつか「眺めて」きた。

そして、今夜は町家で一晩「住む」。

そこにはまったく意図はなかったのに

…振り返ると、あちこち行ったつもりでも、

この日は奇妙なことに「町家」でつながっていたのだ。





開け放たれた引戸の外は、普通に往来のある路地。

通り過ぎる人を眺めながら

姿は見えないけれどすぐ側にいるらしき鈴虫の鳴り響く鳴き声を聞きながら

時折缶ビールを口に運びながら

ゆらゆらと京都と町家の夜を過ごした。

まるで金魚鉢の底にいるかのような、ゆらゆらとした、

現実感のない、浮遊した時間を…。






翌朝。

宿を後にし、私が立ち寄るのは…もちろん、このお店。

そう、今季4度目(!)の大阪岸辺はシュクレである(笑)。




ランチにがっつり食べる予定なので、

なんとまぁ、朝はこれだけ(笑)。

何度も来ているシュクレとはいえ、たった2個だけしか買わないのも

余裕なんだかなんなんだか(笑)。

いや、決して飽きた訳じゃないから、泣かないでくれよ?(笑)

(シュクレのパンの美味しさを延々書いていたら次に進めないので、ここはさくさく行きますわ、泣かないで?(笑))


クロワッサン・ラング・ア・ラ・ファン・ド・レテ。

「過ぎゆく夏を想うパン」

…今の私の心情に最もしっくりくるクロワッサン。

想像力を強化させるパンなんだそうだが(笑)


…ところが私の脳裏にかかるのはなぜか


「夏をあきらめて」

by研なオコだったという(笑)。




なにをおっしゃる、うさぎさん死語)

私はこれからこの夏最大の「オモシロイベント」に出かけるのだ。

夏はまだまだこれから!!!


連れと合流し、店を出ようとした時にちょうど焼き立てがっ?!





火傷しそうなほどにホットなむっちんむっちんのバジリーク!

(バジリークについてはこちら

今度はパインではなく、オレンジとホワイトチョコが入ってマイナーチェンジ?!

パインも好きだったけれど、シェフの言葉通り

「さらに一体感が出て」…言葉にならないほど絶品!!


車の中を粉だらけにして、夢中になってほおばった。

あぁ! せっかく朝ご飯2個に抑えたのに、結局3個になってもうたわ…




つづく


2006.8.26〜28