67-6.'06夏 関西灼熱ロングステイ 〜ツール・ド・シュクレクール〜





06関西ロングステイその5〜和歌山GAMA#5〜はこちらから*



食欲減退の夏。

パン屋さんは苦戦を強いられるんだとか。

しかしこの店にツール・ド・シュクレクールがある限り!

私が近所に住んでいたら、間違いなく全部スタンプを埋め尽くしていただろう。

…いや。近所に住んでいなくとも集めてみせよう?!


*ツール・ド・シュクレクール05年夏はこちら





関西ロングステイ最終日は土砂降りの雨だった。

それでも客足が途絶えることがない。それがシュクレ。


今日から始まった「ツール・ド・シュクレクール」はいわゆるスタンプラリー。

いろんな種類のパンを食べて、スタンプ集めようという企画なのだが

前回、自分の「好みの偏り」を痛感させられたのだ。

いくつもいくつも買い込んでも、ちっともスタンプが集まらない。


なぜなら、生地の種類(セーグル生地とかブリオッシュとかデニッシュ生地とか)で

スタンプが一個つく、というルールなのである。

私はどうやら「バゲット生地」に片寄りがあるらしい。

プレーンな食事系のパンに手が出ないらしい。

きーっ、ご近所だったらパンドミだってバゲットだって買えるのにっ!



こーなったら今日はとことん長期戦だわ。

連れとイートイン席を陣取り、ちゃくちゃくとパンを食べ集める。


トップ画像のプティ・パン・クール・オ・マングエ・ショコラブラン(長いよっ!)

お馴染みハート形の「パン・クール」のマンゴー+白桃+ホワイトチョコバージョン!

フルーティーさにミルキーな甘みが細いボディにぎゅぎゅっと詰め込んで!!

もう、最初っからあまりの美味しさにヤられてしまった。

マンゴーに白桃?!

なんで私の好きなものしか入っていないの?無関係)

しかもホワイトチョコでまさに「甘酸っぱい初恋の味」(笑)

だからハート形なの?(笑)





パンを撮るものにとってはいつも思うのだが

シュクレのイートイン席ってパンが最高に美味しそうに見える採光なのだ。

例え外が土砂降りでも、これだけの光が注がれる。

どんな人でも名カメラマン(笑)。


定番だけど今回初めて食べるタルトフランベ

肉とチーズのダブル動物性脂肪の旨味が激しく旨い…。

しかしこれも「バゲット生地」なのね?(笑)

買うもの買うものほとんどが「バゲット生地」(笑)。

全然だめじゃん、スタンプ貯まらない(笑)。





新作のリュスティック・バジリーク・オ・アナナは

切ってみると爽やかな黄緑色!

爽やかなのは色だけでなく、味がとにかく素晴らしい。

バジルの爽やかさに、ところどころピンポイントでジューシーパインの

濃厚な甘さが感覚を揺さぶる。


…バジルにパインよ?! どうしたらこの組み合わせが浮かぶのだろう。

何かの料理にヒントを得たのだろうか、

いや、逆にこのパンを食べることで

料理人の何かに点火するような気もする…。


一度、何かの手伝いで「夏のパン」をテーマに、

食べたいもののアイデアを出し合ったことがある。

トマトとか、カレーとか、夏野菜とか

所詮素人だからか、そういう月並みなアイデアしか思い付かなかった。

バジルとパインで「夏でも食べたい爽やかなパン」を

表現するなんてあり得なかった! 思いつきもしなかった!

シュクレの「夏のパン」って、こういうことなんだ。

すごいよ…。あんたすごいよ!!





前回買い忘れて、あとで友達に「あれ買わへんかったん? 阿呆やー」

そうけなされ悔し涙を流したのがこのイチジクのパン、

セーグル・ノア・エ・ゴルゴンゾーラ・オ・フィグ・ドゥミセック(だから長いてばよっ!)

セーグルノアに白イチジクがまるごと包まれているのだが

赤ワインで煮た白イチジクがもう、あんた! ちょっと聞いてる?!(笑)

イチジクの贅沢な甘さだけでもごちそうさまなのに

ゴルゴンゾーラの「臭み」までもが加勢するなんて???





「焼き立てもうすぐ出ますよー」

その声を聞くまで私たちはずっと待機していたのだ。

そう…このジャガバタ・エメンタール・アンショワ。

定番だというのに、今の今まで素通りしていたのだ。

きっと、「ジャガばた、でしょ? イモでしょ?」と

なめてかかっていたのだ。あぁ、認めるとも。





「これは絶対ここで食べるべき! 持ち帰りなんて、冷凍なんてありえない!」

やたら熱く力説する連れの言葉そのままに

焼き立てのほやほや、半分個に切り分けた。

ぼわっと大量の白い湯気が吹き上がる!

あぁ、なぜ画像にはそれが写らない?!

このぽんこつカメラめ!!責任転嫁)





ほこほこのじゃがいもが丸ごと一個、こいつが湯気の元凶!

生地にはエメンタールとバターが仕込まれ、

ネバネバむちょむちょに糸をひく…!!!


う、う、う、う、うまぁ……!!!!

何ごとだろう?! 何が起こったのだろう?!

「言葉を失う」「ほっぺたが落ちる」「嗚咽が漏れる」

そんな陳腐な言葉では表現できないほどのあまりの美味しさに

ほんの一瞬、我を失った。


すごいすごいすごいー!!

こんなにすごいウマさがあるんだろうか?!

生焼けなんじゃないかと思うくらいにむちょむちょの生地なんて…!!

生焼けむちょむちょと言えばこの店のパンを思い浮かべるが(笑)

私のツボをついているのかもしれない、あいつ(=オフィス街パン屋)と同じかよ!(笑)


ジャガバタのフランスパンなんて、どこの店でもあるのに

この店はどうしてこうもヒトクセフタクセ手が込んでしまうのだろう?!

それはアンチョビを入れたからとか塩が旨いからとか、

それだけのことじゃない。

バターの練りこみ方やチーズの加え方とか

他ではやらないことをやってしまう。


…ああ…。

これは、この場で食べる以外に方法はない。

絶対に、ここで食べるべき「禁・持出し」パンであるのか!(笑)

出会えてよかった…この関西ロングステイで一番興奮したパン。

まぎれもなく。





悶絶疲れもピークにさしかかろうとしているのだが(笑)

新作のパン・ソーシス・ピマンテ。

新作だから、となにげなく手にしたパンである(あぁ、こいつもバゲット生地かぇ!(笑))

ところがどすこーいっ、この子がまたとてつもない悶絶野郎だったのだ。

チョリソーに加えて、なになに?

マカダミア? グリーンペッパー? さらにジューシーパイン?!

これがもう…陳腐すぎる表現をするならば「パン・酢豚」(笑)

ちーがーうーちーがーうー(笑)


ここまで個性の強いスパイシーなメンツを揃えても

甘いと辛いとがくみ合わさっても、ひとつの完成された味わい

バジルとパインのパンにも驚愕したが

この調整力というか…バランス感覚ってなんなんだろう。





つい先月来た時に、「機械が壊れたから明日からしばらく作れない」

と、トホホな休業(?)宣言をされてしまったクロワッサン。


さぁ、クロワッサンもようやく復活したことだし、行ってみますか、

スタンプは「デニッシュ生地」に差し掛かる!





ピスタチオのグリーンがアクセント、夏色のひまわり「マダムソレイユ」は

夏の果実、グレープフルーツ、オレンジ、レモンのコンフィに

レモンクリームを巻き込んだクロワッサン…。

しかも大量。それでも負けない生地のお味。いや、この勝負、イーブン!

あーあーあー

…甘い…酸っぱい…甘酸っぱい…きゅーん…





ショソンルージュは、かの自家製フランボワーズコンフィチュールを

どぅわっと入れたパイ。ザクザクっと大判な美味しいカスが大胆に崩れる

あぁぁ…入れ過ぎ、濃すぎ、リッチすぎ…。





そしてようやく「ブリオッシュ生地」のスタンプをえられたのは

このトロペジェンヌのキャラメルポワール。

シューのように卵の味わいが強い生地に、

噛み付くとみゅーっと溢れてくるキャラメル風味のパティシエ−ル、そして洋梨!

濃厚なキャラメルには、淡白なブリオッシュがちょうどいい!

あぁ、これもここで食べるべき「禁・持出し」パンであるよ…。

なんだか、今日はそういうパンに多く遭遇したような気がする。



ていうか、今年も全然集まらなかったよ、スタンプ!(笑)

えぇと、期限は9月17日まで…。むぅー。むぅー。

夏ってば短いわよ!

すぐ来ちゃうじゃないの、食欲の秋!(笑)

5日程度の関西ステイでは到底クリアできそうもない

この難易度高い、ツール・ド・シュクレ。

地元の方々よ、私の無念を果たすべく、足しげく通っていただきたく。




*余談*

この後、東京にまっすぐ戻った。

今夜うちに来るパン友にシュクレのパンを買って行ったのだが

一番悶絶したこのジャガバタはあえて買わなかった。

そう、彼女は重々承知しているはず。私の意図するところを。

ベストな状態で食べられないものであれば買って来ない私の意固地なポリシーを。

要するに、「食べたきゃ直接食べに行ってこい!」…なのである(笑)。

それって酷?

だって、「禁・持出し」なんだもーん。



*おしまい*







*関西ロングステイを終えて…追記*


店内で、シュクレの掲載誌を読みながら考えていた。

掲載されていた本はいずれもよく取材をし

彼の声を汲み取った、いい記事を書いていたものが多かった。


でも、全てがすべてそうとは言えないのかもしれない。

これは決してシュクレに限ったことではなくて

パン、いや、世の中のその手のグルメ記事全般に対することなのだけど。


…とある別の店で聞いた話のことをふと、考えていた。


もしかしたら、書き手はわざわざ足を運ばず、

パンも直接この場で食べていないかもしれない。

顔を見ずに、パンだけを手元において

そのパンだって、どれだけ味わえつくせているのだろう?

あの焼き立ての感動を味わずして?

だとしたら、何を語れるのだろう。

店を見ずして、顔を見ずして、何を伝えようというのだろう。


書き手も書き手だが、客も客だ。

私の大好きな店が、心無いお客に荒らされた。

ただ雑誌のパン屋リスト的にあげられている店という最低レベルの情報だけで

その店の大事にしているものを理解せず

土足で踏みにじり、彼らを脱力させた。


怒りを通り越して寒気すら覚えた。



もし、私が「本職」でこういう記事を書くような人間であれば?

たぶん、パンだけ渡されてもそれなりの言葉を並べてカタチにはできる。

でも…「自分」が書く意味がそこにあるのだろうか?


私はweb上でこうやって好きに書かせてもらっているけれど

それが一番自分に合っているとそう思う。

私は客として。あくまで客として。

「本職」には負けない私だけのプライドを持って。


字数に縛られず、締め切りに縛られず、

書きたい店についてのみ、書きたいことを書く。

自分だけに許された場所で、大好きな人たちのことを書く。

そして、読んでくれている仲間たちとパン屋さんを結び付ける。



自分の目で見て

自分の舌で味わって

自分の足でたどりついて

自分の口で言葉を交わし

自分の腕で絵を撮り

自分の言葉で伝える。


5感すべてを使って…

いや、あるならば6感まで使って書き続けたい。


それ以上の真実がどこにある?





はー…難しいことごたごた書いてしまいました。

なんでも惚れ過ぎるのも、度が過ぎるとややこしいですね(笑)。

久々に、「怒りで泣く」という経験をしたもので…。

2006.7.17