9-2.4月北海道・雪景色現実逃避行 〜洞爺・天国のフレンチ編〜
9-2.4月北海道・雪景色現実逃避行 〜洞爺・天国のフレンチ編〜
札幌篇はこちらから
洞爺2005年正月篇はこちらから
ついに…この日が来てしまった。
今年の正月にウィンザーホテルにパンを買いに来た時に
「今度来るのは絶対ミシェルブラスを食べるとき…」
そう夢にまで描いていたのがついに…。
フランスの三つ星レストラン、ミシェル・ブラス(Michel Bras)の料理が食べられるのは
フランス・ライヨール村にある本店以外では世界でこの洞爺しかないという。
私は、それを抜きにしても思い出のあるこの場所と景色を眺めながら
極上のフレンチを食べたかったのだ。
ライヨール村のミシェルブラスは、この山の上にあるウィンザーホテルよりも
さらにさらに標高の高いところにあるオーベルジュなんだとか。
だから、冬季は雪に閉ざされるためクローズしているとのこと。
つまり、冬の料理を食べられるのは、洞爺だけというわけだ!
…といいつつ、いちおう雪は残っていても今は4月。
メニューは春メニューに変わっていたようだ。
ショーミな話、ここのフレンチを食べるだけで
ものすご〜くお金がかかるので(笑)
宿泊はせずに札幌から日帰りでやってきた。
でも、やっぱり来たら来たで「泊まって行けばよかったぁ」と思うのだ。
エントランスからダイニングに通されるまでの通路は
両脇にせせらぎが流れている。かなり狭いので絶対落ちた人、いるはず…(笑)。
まるでこの洞爺の自然を支配するかのように、
悠然と山頂にそびえ立つウィンザーホテル、その11階。
洞爺の大自然のパノラマが眼下に広がる…。
もう、これだけで「来て良かったぁぁ」とため息がこぼれっぱなしなのだ。
…って、まだ食べてないよ、席についたばかりだよ!
フロアは驚くほどシンプルで、フローリングに、裾を絞ったテーブルクロス。
(ボックスシーツやアイロン台を思い出させる…)
この景色と、料理と、それをサポートする
アイテムたちがあるから無駄な装飾がいらないんだろうな。
これが噂のオリジナルのカトラリー。
フランス語の説明文が添えられている(もちろん読めない(笑))。
今までに持ったことがないくらいずっしりと重たい。
サーヴィスの方が、ナイフの説明から詳しくしてくれる。
ライヨールの村では、一生に一本、ナイフを使い通すのが風習だとか。
それで、今回もそれに習ってナイフだけは替えずに使い通すということだ。
(フォークなどは皿の度に替えてくれる)
このカトラリーレストも含めて、一式欲しくなってしまうけど
1階のスーベニアショップでも買えるのだが
お値段を見てもちろんすぐに諦めがつく(笑)。
前菜とメイン1品、デセール1品をアラカルトでオーダー。
しかし、フレンチで嬉しいのは、それ以外に差し込まれる小さなサプライズたち。
それぞれにドラマティックな演出があって、一皿一皿に感嘆をあげて大変(笑)。
アペリティフには、他の二人はワインにしていたが
私はリンドウの根と甘草のリキュールのトニック割り。
蛍光色のような明るい黄色。
料理と一緒に飲む方が口の中をさっぱりさせてくれて美味しく感じた。
アペリティフについてきたのはこの半熟タマゴにリンゴ煮を浮かべたもの。
ブラスの幼少期の半熟タマゴにまつわるストーリーを渡され、
それを読みながら、スプーンですくって頂く。
オテル・ド・カイザーの3種のパンにはチーズなどが塗られている。
ナイフにしろ、このタマゴにしろ、料理が出されるたびに
ブラスに関するストーリーが語られるのだ。
窓際には、蕎麦粉のエピがナプキンに包まれて、
割られるその時までじっと横たわっている。
エピは、そのままで頂いても十分に甘みと香ばしさがあり美味。
カイザーの蕎麦粉のパンとはだいぶレシピも違うようだ。
蕎麦の香りはほんのりだから。
ただ、決して出過ぎた真似はしない、控えめさがあった。
「美味しすぎてとまらなーーい、パンだけで満腹になっちゃうぅぅ」という
パン好きにありがちな失敗に陥ることはなくて済んだ。
(↑とりもなおさず、いつもの私のことなんだが(笑))
石に突き刺さったせんべいのようなクミンの固焼きパンは、
カレーを思い出させる香りでとても美味!
強烈だったのは、ブラスブランドのシダの様な
ハーブの模様が型押しされたオリジナルのバターだ。
これが…これまで食べて来たバターの中でもっとも塩っぱいものだったのだ。
これは、つけるパンを選ばないと…というほど個性的なバターだわ。
アミューズ!
これは3種×2人分。スプーンがこちらを向いている方が自分用、というわけだ。
美しさにただただため息。おかげさまで、どれが何だか全然覚えてない(笑)。
このスプーンも全てがオリジナルなのだが、かなり深くて、
口に丸ごと入れてもつるんと滑り込んで来ないものについては、
スプーンに微妙にソースなどが残ってしまう。
べろんとなめてもいいかな? 行儀悪いけど(笑)。
どれも美味しいけど、この一口が一番印象的だったかな。
普段生活していたら絶対に味わうことのないような、花の香りのついた一口。
そして…前菜は、伝説の…と言ったらおおげさかもしれないが
これを目当てに人々はこの洞爺の地まで来るといわれる「ガルグイユー」。
一見、お上品な量のサラダに見えるだろうか。
いや、私もそう思ったのだが、実は30種類以上の季節野菜やハーブが使われているのだ。
周りには様々なソースやスパイスが散らされており、
「いろいろな組み合わせを楽しんでください」とのこと。
ど、どこからどう食べたらいいのでしょうかっ。
恐る恐る端から手をつけて行く。
!!!ーーー美味しいーー!!!
茹で具合、味付け、柔らかさ、素材そのものの香り、
全てが緻密に計算されたかのように、それぞれの持ち味がある。
全体がバターとコンソメ(?)のしっかりとした味付けであるので、
不安に感じた野菜ソースとのカスタマイズも、あまり問題がなかった。
(あまり野菜ソースに影響を受けなかった…とも言えるが)
ひたすら野菜しか乗っていないのに、なんて言う奥深い一皿なんだろう。
食べ終わるまで意外と時間を要した。
次の野菜はなんだろう、今食べているのはなんだろう、
このソースは何の野菜が使われているのだろう…。
本当に最後の最後まで飽きることがなく楽しませてくれた。
黒い粒粒の正体が一体なんなのか、最後の最後までわからなかった。
ものすごく馴染みのある風味なのに、喉の奥まで出かかっているのに…。
食べ終わった後にギャルソンに尋ねると、ずっこけるほど身近なものだった。
まさしくそれだ。それ以外の味はしない(当たり前だ)。
(*その正体は行ってみてのお楽しみということで)
そしてメイン!
私は肉か魚か延々と迷った。最近肉がすごく好きなのだが、
この真ゾイは、レモンのコンフィで香りを付けたアーモンドクリームのソース
ということで、アーモンドクリームと来たら頼まない分けにはいかない(笑)。
ボリュームは控えめだけど、一口一口の満足度が段違い。
さっと焼かれた真ゾイと爽やかなレモンの香り〜!
ふりかかっているのは麦(プルグール)のピラフ。
とぐろを巻いているのはムニエルされたウド。
一皿まるごと美味ぃぃ。
母と連れはブレス産雛鳥のローストを。
鶏の柔らかさにも感嘆したが、
もっと驚いたのは添えられていた茄子とオレンジ&柚子〜!
米茄子にオレンジの果肉を混ぜたものに柚子の香りを付け、
それを軽く薄い薄い米茄子でサンドしている…。すごい手の込みよう!!
茄子という地味な素材がいい意味でオレンジの土台になり、
口当たりの良さを提供している感じ。
…焼き茄子にオレンジを…なんて、誰が創作できるんだろう?!
気持ち的にはもうこれでも十分満足だったけれど、
やはりこの名物も頂いておかなくては。
…意外や意外、本日頼んだメニューの中で一番高価なのがデセール。
この一皿で、普通のフランス料理のディナーコースが食べられちゃう位の値段(笑)。
「クーラン」は、チョコレートのビスキュイをかち割ると
溶岩のようにソースが流れ出てくるモノ。
その上にはアイスが乗っかっている。
母も連れも、一番王道のオリジナル(チョコソース+濃厚クリームアイス)を頼んだが、
私だけはスパイス(スパイスソース+カラメル&焦がしバターのアイス)を頼んだ。
オリジナルの「クーラン」は、ある程度味に予測がつく感じだったからだ。
まるで洞爺湖そのものだ…。周りに黒く斑点になっているのは削りチョコ!
うぁーーっ。本当に流れ出て来た。
周りのクリームはせき止めることなくソースは決壊、
容赦なくお皿を黒く染めて行く。
私のスパイシーな「クーラン」が、正直なところ一番美味しかったと思う。
中の黒糖のソースが個性的だったからだ。
美味しいことは美味しいのだけど…かなーり濃厚でしたな。
珈琲無しではかなりヘビィ。
保守的なmi_wa母は、決壊させずに先に上に乗ったアイスだけ食べて
上から崩してきれいに食べている。
「えー、その食べ方はむしろタブーじゃないの?」
「だって、お皿にソースをあげてしまうのはもったいないでしょう」
…それじゃただの「アイス」と「ガトーショコラ」じゃないか…。
私たちが心奪われたのはクーランよりもむしろ、こちらのプティフールたちだった。
ミント風味のアイスや、アールグレイのチョコレート、
チーズのお菓子など…ひとつひとつが懲りまくったもので
ここでも感嘆しっぱなしである。
が…しかし早くお茶が飲みたい!(笑)
目一杯チョコ度が高まっていたところにコーヒーがようやく登場。
…お茶受けにもまた何か出て来たぞ(笑)。
なんと、リキュール入りのミルク(そのまま飲む)と、
チョコレートムース。…くわー、またチョコか(笑)。
このチョコムースがめちゃくちゃ濃厚すぎて、コーヒー三杯は必要だっただろう。
私は気取ってハーブティーにしたから、ちょっとくらくらしていた。
これぞ、チョコ責め(笑)。
このチョコの猛威は夜まで続いていて、
帰宅後、私も母もほとんど夕食は食べられなかった(笑)。
「クーランじゃなくて、お料理をもう一皿食べたかったわね」
ほんと。もう一皿くらい料理を楽しみたかった。
私はやはり、あのガルグイユーが忘れられないよ。
いずれにせよ、素晴らしい料理だった。
夢のような、時を忘れるような時間だった。
まさか雪景色を眺めながらになるとは思いも寄らなかったが
今度は必ず、晴れた緑が眩しい季節に再訪したい。
もちろん、オテル・ド・カイザーでもパンを購入。
(イチジクのパンは、東京のそれとは大違い、ぐたぐたに濃厚なイチジクがたっぷり!!)
*
「運転して帰るのがめんどくさい。泊まって行きたいーー」
家に帰って父の夕飯の支度をしなくてはならない母はこう漏らす。
本当にそう思う。
このまま部屋でどーんと横になりたいわ。
目覚めたらまたこの羨望が広がっているなんて、夢の続きと勘違いしそう?
泊まりで来るなら海外旅行を一回我慢しなくちゃいけない?
でも、それくらいの価値はこの洞爺にはあるんじゃない?
酔いが醒めるまで、少しホテルの中を歩いたが
夢から醒めるまではまだまだ時間がかかりそうだ。
* ESSAY「海のパン屋」篇へつづく *