59-3.2月関西パン出張ロングステイ -AREA3- 大阪本町h





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ひとつの店に出会うとき。

ひとつのパンに出会うとき。

必ずそこにはそれぞれにストーリーがあり、

そのかけがえのない物語は、誰ひとりとして同じように語ることはできない。

例え同じ店に訪れたとしても、同じパンを食べたとしても。


味覚は人によって違うように、食べる者と店とパンにまつわるストーリーは無限だ。

ましてやこの店のパンは「一期一会」。

次に出会えるかどうかもわからない。

もしかしたら書き留めることは時に酷なことなのかもしれない。

人にとっても。私にとっても。


でも、…だからこそパンを書き留めよう。

食べたパン全部を描くことはしない。

私がこの店のパンについて描きたいのは、個別のパンの味ではなく

このパンを産んだ人と、産まれた奇跡、

…そしてそれに感動する自分の姿だからだ。






旅の一日目。

仲間と待ち合わせたのは本町h。

隣のマルシェでは、ランチタイムの後はhのパンをイートインができる。

時間が許す限り、今日はhパンととことん、とことん付き合わせてもらう!!

予算は度外視(笑)、大きいのも、量も、

軽いのも重たいのも重くるしいパンしかないよ? ここ(笑))かかってこーい!





切り分けてもらったトゥルト・オ・ルヴァン。

ずも〜んとでかいルヴァンが2種類。でかすぎてなかなか売れないらしいが(笑)

どっちがどう違うの?


シェフがのっけからのたまった。

「こちらはmi_waさんを。こちらは●●さんをイメージしたんです」

ぎゃーー! なんの告白ですかっ!(笑)

私たちは顔を赤らめた。

どっちがどう違うのっ! どっちが美味しいのっ!!(笑)

私たちのプチ戦争が勃発。





いずれもありえないほどにしっとりした内相!!

べたべたするクラムに、カリッとした薄皮、なんと伸びやかな生地…!!

それでもくらべると、●●さんバージョンは少し引き締まった、粘りは落ち着いている。

mi_waバージョンは、もっと粘りが強くて、溶けた餅のようだ(笑)。





ぎゃはー! こんなにべたべたしたパン、食べたことがないっす!(笑)

種の時点では、どれほどまでにどろどろだったことだろう、

指について離れないのだもの(笑)。

「言っちゃなんだが、私の方がみずみずしくてぴちぴちですぅ〜っ」

…なんか本性が出てしまうような醜い争いをする私"たち"。…いや、私"だけ"?(笑)


実際のところ、mi_waバージョンの方がねとねとでねばねばなのである。

そしてh独特のセ−グルの強い香りがして、猛烈なコク…!! うまい! うますぎ!



しかし疑問。

…はて。シェフはなにゆえこれを私とイメージしたのだろうか。


この、どろどろした、

ねばっこくて粘着質で、

じめじめして、

うじうじしてすでにパンの例えじゃなくなってる)


……ひどいですっ! シェフー?!(笑)



いや、話を聞くところによると、●●さんバージョンは、

以前彼女が「大きなパンを食べたいなぁ」と言ったことから産まれたパンであり、

私の方はセ−グルがやや多めに配合されているという。

単に私が「セ−グルが旨い! 大好き!」と

いつも言っているからイメージされただけで(笑)、

別にべたべたどろどろな陰湿さを表現したかったわけではないらしい(笑)。

…安心した反面、ちょっとへこーっとずっこけた。

なにを期待していたと言うのだ、私!(笑)





……ぎょ! とんでもない新作がっ!(←私にとっての新作)

なんと、ミモレットとカラスミのパン!

確かにミモレットは、カラスミの味に例えられることがあるけど

この二つをパンに合わせちゃってもいいのだろうか。

そんな贅沢を覚えさせられて私たちはただじゃいられない(笑)

カラスミのしょっぱさに唾液が溢れ、ミモレットのウマ臭に唸る…!

これ、M元首相にも食べさせたい!(笑)

(ちなみにこれは数日間、店頭に並んでいたが…その名も「ミモレッタ2」。ひねってるんだかなんなんだか(笑))





バトン状のパンが結構並んでいるh。バトン好きには選びきれなくて困りますが?(笑)

左のマロンとラムレーズンの入ったパンも尋常じゃない美味しさだった。


右は以前並んでいた金柑のライ麦パン。

友達らが美味しいと絶賛していたというにも関わらず、また引っ込められたパン。

熱きラブコールでつかの間の復活?! そして私は初〜!

−グル生地に甘い金柑が4玉ころころっと入っているのだが…。

裏側には蜜が焼き付いて…あわわあわわ!





ぷりん!!


ぎゃーー!!!

美味しすぎる! この金柑!! やば、鳥ボボ(=鳥肌ぼぼぼ)!!!

金柑って、買って食べることがないから、まじまじと食べるのは滅多にないこと。

こんなに皮の存在感のある果実だったのかー、

みかんの皮をまるごと食べたかのような強烈な香り。

実があるのに、香りが薄まることがないんだなぁ! すごいよ、金柑!

そして、これにセ−グルを合わせているところがすごい。

あのくどいまでのライ麦風味が(笑)、金柑の甘さの影でぐるぐる渦巻いている(笑)。


めっちゃくちゃ美味しくて、今回食べたものの中でも特に印象的なのに

このパンは「売れない」んだそう。


…「売れない」というのはシェフの口癖ではあるのだが(笑)これはほんとみたい。

ええ! どうして?! 金柑って、そんなにマイナーな食べ物だっけか。

こんなに美味しいのにもったいない…!

売れないものを無理に作らせるわけにもいかないので

こうやって徒党をくんでラブコールを送れば限定復活の可能性もある…ってことか。


そこで提案!

hでもう一度あのパンを食べたい!

と思ったなら


・売れるように回りにアピールしまくる店内で隣の客に「これ、美味しいですよぉぉ」とアピールとか(笑))

・売れ残らないように全部責任持って買い占めるただし様子をみながら閉店まぎわに(笑))

・買いたい人たちを日にち限定で結集させる一個のパンのためにその騒ぎかよ!(笑))


…いや、肝心なことがひとつ。


・「美味しかったです!」 そのひとことをシェフに伝えること。


意外とそれが一番の復活の近道かもしれない。





これも初めて食べる、カシスとイチゴのカンパーニュ。

カシスとイチゴが色だけでなく香りまで限界に挑戦ってなくらいに迫る!!

イチゴの果肉がでれ〜っと飛び出してくるのだが

もう一つ、モモのようなシャクシャクっとした食感の果肉まで入っていたような…?!

なんていうか、ほんっと生活感のないパンばかり(笑)

いいんだろうか、こんな贅沢なパンに慣れてしまい、東京に帰れなくなったりして?(笑)






さっきから「この店はすぐ商品が入れ替わる」みたいなことばかり

書いてしまってはいるが(笑)、ちゃんと残っているパンもある。

この日は意外にも、定番のパンが多く並んでいたように思うのだ。

(といっても、私が以前食べたことのあるパンであったり、お話会で出たパン、という意味でだが)

そして、それらが全部「'06バージョン」であり、パワーアップしているの!


そのうちの一つがこれ! パントマト。

トマトを練り込んだ生地に、クリームチーズを入れたパン。

そう、あのときだって美味しいと思ったけれど、トマトのパンってそれだけでなぜか地味。

フルーツやナッツに比べて華にならない…気がするのは私だけ?

でもでもでも!! 恐ろしいほど進化していた「'06パントマト」。

トマトの果肉感が一層増し、むちゅむちゅとしたクラム、さらに…水牛のモッツァレラ!!

のわーーなんてものを入れちゃうのでしょう!

でも…これも「たまたま手に入ったから」とか言うのでしょう?(笑)






これも進化版、「'06マンゴーフロマージュ」。

そうよ、これだって十分「'05バージョン」でも美味しかったのにまだ進化させたりないの?!

…ドライマンゴーのみに飽き足らずフレッシュマンゴーを生地にまで入れ、

さらにズサっと生マンゴーを突き刺す!(突き刺さっているのだ)





これも進化バージョンー!!

'06栗とエメンタール・プリュスペカン」。

散々語り尽くして来たが、栗の使い手であるマジカルシェフ、

これもよく店頭に並んでいるのだけどじゃあ、定番って呼んでいい?(笑))

今年は焼き栗にリニューアル、さらにピーカンナッツもプラスしちゃって、あーらら、、こらら、、。

焼き立てに遭遇できたのでたまらず齧りつくが、

もわんと立ちこめる湯気の中にほこほこの栗とブルーチーズ並みに臭気を発するチーズ…!

これが本日の焼き立てだったで賞だったわーよくがんばったで賞 的なセンス)


もしまだ進化するのなら(いや、もう十分ですってば、シェフ)、

'07バージョン? いや、もっと早く手を加えるなら'06下半期?(笑)

…ネーミングまでは手が回せないのは御愛嬌(笑)


どうしてこのシェフは改良する手を止めないのだろう。

すでに完成されたと思わされるものを、いともあっさり否定するかのように。

そして、私たちは目の前で繰り広げられるその挑戦劇をいつのまにか待ちわびているのだ。






パンの宴は続く。

「一期一会」なhにおいてはレアな存在の「定番」(笑)、

そして会社へのお土産定番(またこれ? と言われそうなほど毎回これ)、

フリュイセックももちろん!

でも私が今回、とてつもなくはまってしまったのは

その姉妹品、セーグルフリュイトロピックだったのだ…(これは後述!)





幸運にも、セ−グルフリュイセック一個分の配合を見せてくれた!

対生地100…を、超えちゃってる?! 生地、たったこれだけーー?!(笑)

「もっと減らしたって私たちは買いますってば、無理しないでぇぇ」

余計なおせっかいをかくのだが(だって、安すぎるんだもの…!)

ちゃんと分量にも気を配っているらしく、この量がベストなんだそう。


…ごめん、シェフ。

私、てっきりシェフは「多けりゃ美味しいでしょ、それそれー♪」って

かまわずぶち込んでるんだと思ってた(笑)

ちゃんと研究してらっしゃるのね〜ごめんなさい〜(笑)。





前々回も、前回も悲鳴と嗚咽と恍惚でけちょんけちょんにされたマロンたち。

今日も…また同じように…うぁぁぁ…ぁぁぁ…

食べている最中も、あまりの美味しさにぷるぷるぷるっと震える私たち。

あぁ、でも、この先、食べていなくてもぷるぷるぷるっと震えるだろう、

hのマロンの禁断症状が現れるとき…。



シェフが「パン」という素材を使って描き続ける芸術品たちに

私たち鑑賞者たちは時に驚嘆し、時に言葉を失い、時に賞賛を浴びせる。

私たちには、パンを食べることしかできないけれど

それを美味しいと伝えることはできる。

それしかできないけれど、そのことを何よりも喜んでくれる人だ。

お客さんの喜びに心を震わせてくれる人だ。

想いをぶつければ、ぶつけただけ、パンで返してくれる人だ。


この日、シェフが私たちに語ってくれたことは決して忘れない。

その力強く、慈愛に満ちた、勇気を与えてくれる言葉を。

またひとつ、hとのストーリーが作られた、そんな日だった。






最終日4日目。

仕事を終え、大阪を離れる前にぎりぎりまで再びhでパン!

初日にあれだけたくさんパンを持って帰ったというのにまだ足りぬか、私?!


平日のお昼時、オフィス街本町ならもっと忙しそうな風なのに

「ヒマなんですよね〜」とのたまうシェフとマダム。

ちょちょ、ちょっと2人とも! 洒落になってませんから!(笑)




オレンジとさつま芋とシナモンのルーロ・セ−グル、

セーグル・パッション・ココ・アナナなど、生活感ゼロの悶絶パンたち(笑)



最近土曜日の方が売れるという話だが、なるほど…それはなんだかわかる気もする。

だって、本町はパン屋激選区。

だって、hにはサンドイッチがない。

だって、hのパンは週末パンというイメージ。




ゴボウ・バルサミック。黒糖とバルサミコ酢で炒めたゴボウ入り。

たとえ野菜を使っても、反則なほどに上品なパンに仕上がってしまう(笑)



お昼に慌ただしく詰め込むオフィス街のパンというイメージとはかけ離れているのだから。

理想的な立地でありながら「売れないんですよね〜」を口癖にしちゃうシェフ。

それでも不器用に自分の作りたいパンを作る。

そんなシェフだからついつい心配しながらも応援したくなってしまうのだ。





神経細胞がぷちぷち切れちゃうほどに美味しいセ−グルフリュイセック。

…それをまさか超えちゃうとは想像もできなかったセ−グルフリュイトロピック。

これを、これをやっぱりもっと食べたい!!





フリュイセックと同じくらいにこれでもかと詰め込まれたフルーツたち。

パイン、パパイヤ、マンゴー、…そしてキウイ!!

キウイ入れちゃうか! しかもどのフルーツも自然な美味しさ!

思わず口ずさみたくなる、君たちキウイパパイヤマンゴだね♪80年代歌謡センス…)

しかし、一番すごいのはその生地。ココナッツにバナナまで入って、

ココナッツのクセをバナナがマイルドに、バナナの甘さをココナッツが引き締め

恐ろしいほど調和が取れたこのトロピック。

…これはお願い、なくさないで!(笑)





年末限定の素朴な栗あんパンにまつわる「お正月休みのエピソード」を聞いた時も

私には、ひとつのパンがもたらす無限のストーリーを想った。

多くの人が、つないでいるであろう、hとのストーリーのことを。

想いの深さの分だけ物語がきっと、そこにある。


私は東京に住み、足しげく通うことができない。

どうしても縮められない距離がある。

だけど、それを埋めるだけの、私だけのストーリーがあるんだ。


通う回数でも、食べた数でも、買う量でもない、

店とパンを想い、そしてそれを伝えること。

それは決してオンラインなんかではない、

もっと、原始的な方法で。もっと、直接的な方法で。





「じゃ、また次回! 来ますね〜」

パンを抱えて立ち去ろうとする私にシェフが紙袋を差し出した。

「歩きながら今すぐかぶりついて!」

うは! なんでシェフ、私が歩き食いが得意なことを知っているの?!(笑)


今回の美味しかった感動を直接伝えにまた伺います。

アナログで不器用なシェフへ。

まだ温かいパンをかじりながらオフィス街を離れた。

言葉にならない気持ちを胸一杯に、口一杯にほうばりながら…。