48.8月札幌 フード・ヒーリング



昨年の同じ日に帰省した札幌は異常な猛暑だった。

我が家にはクーラーがないので(北海道はそれでも本来は十分)、

母は「東京のほうが過ごしやすいかも?」と電話で話していた。

いざ帰ってみると、東京の暑さとはやはりレベルが違う。

暑い暑いを連呼する両親の横で、私は至って涼しい顔をしていた。


やっぱり北海道の8月は体に優しい。

もっとしんどいかと思っていた。

今回の8月の帰省はお客さまもお見えになるし

自由にあちこちパン屋さんに行く予定はなかったけれど

気付けば十分に美味しいものざんまいしてきたみたいだ。

そこは緑に溢れ、懐かしさに溢れ、ほんの少しの切なさがあった。

8月の札幌の風と緑は、ほんの少し私を癒してくれた。







今回の帰省土産はMカイザーのパン。

母がここのクロワッサンが好きなのだ。

帰ってみると、危惧してはいたけれど、冷凍庫が満タン、はじけんばかり!!

無理矢理不要なものをひっこぬいて、パンを押し込める。

あー、もう。ちゃんと美味しく食べてね? お願いよ!




お客さまは午前中でお帰りになった。

私はうずうずと、「外でご飯食べてくるー」と飛び出す。

今回は、旭山公園付近のパンのあるカフェでランチを食べようと

(あわよくば)思っていたのだ。


父にその付近まで車で送ってもらう。

でも、店の場所も名前もわからない。

行けば分かると思っていたのが甘かった。

ぐるぐる付近を巡回してようやく、それらしきお店を発見!

父も一緒に食べたかったのかも知れないけれど、娘、父の心知らず(笑)

「帰りは歩いて帰るから迎えはいいからねー」とすたこらさっさ。

親不孝な娘である。





以前BBSでお薦めしてもらったことがあるお店かどうかは不明だが、

1階にパン屋さん、2階に犬用のメニューもあるペット同伴化のカフェ。

まずは1階のパン屋さんの方に入ってみた。こんなお店があったなんて、知らなかった!





手作り風のインテリ雑貨屋さんのようなパン屋さん。

イートインできるカフェスペースもあり、内装はとてもおしゃれ。

近代美術館のpipinのジャムも売っている。

でも、「焼き立てパン」というのぼりが駐車場に出ていたり(笑)、

パン自体はとても素朴な印象。どことなく昔ながらのパンというか。

その微妙なギャップは画像ではお伝えしないことにしよう(笑)。





「お写真撮って良いですか?」と聞くと、

「こんなパンで良かったらどうぞどうぞ」と照れながら店主。

まだ若い男性で、一緒にやっているのはお母さまだろうか?

パンよりも、お店の方の感じのよさが心に残った。





2階のカフェは、もちろんパン屋さんとは別のテナントだけど、

使っているパンはどうやら1階のものっぽい。

本日のランチはスープカレー。

高台である旭ヶ丘は、札幌の町並みが見おろせる。

テラス席に座り、ちょっと遅めのランチ。やっぱりここも風が気持ちいい。

カレーもパンも、単体で食べると「?」というところがあったのだけど、

一緒に食べるとこれがどうして俄然うまくなる(笑)。

「1+1=3」とはまさにこれ。





そして! まったく偶然に発見したのだが、

このカフェ&パン屋の向かいには、大好きなムーランドギャレットの本店があったのだ。

宮の森店の方はいつも利用しているけれど、あの店のパンは最近まで八軒店から運ばれていたのだが、

現在は本店をこの旭ヶ丘に移し、八軒店をクローズしたそう。

(代わりに、ファクトリーにも新しく支店を立ち上げたらしい。めまぐるしい!)


旭ヶ丘本店にくるのは初めて!! うわーー、なんか、全然店構えが違う。

薪なんかも積み上げられていてかっちょいい!!




ヨーロッパの田舎の香りがぷんぷん香る、パン売り場とカフェ。

カフェのサンドイッチメニューが八軒店のときよりも遥かに充実。

ハモンセラーノがどぉんと天上から吊るされていたり、こだわりが見える…。

あぁぁ…、私、たった今ランチ食べて来ちゃったばっかりなのに!!

発見が遅すぎたよーー!


お店のお姉さんもすっごく親切に、カフェの方も案内してくれたり

…一個しか買えないことが無念!






そうして一個だけ厳選して買ったのが、パン・ド・ロデヴ・フリュイセック。

胡桃レーズンに、オレンジピールがたっぷり入ったロデヴ…。

この風貌…、この具の組み合わせ…。

あれー? どこかで見たことがあるような?(笑)


まだ焼き立てだったので、今すぐかぶりつきたかった。

「あーん、お店でたら今すぐかぶりついちゃいます」と言うと、

お姉さんが「スライスしましょうか? ちょっとつまみ食いする分だけ(笑)」

そうして2枚スライスしてくれたものを歩き食い。


「あの店」のロデヴとくらべると若干「軽い」のは否めないけれど、

これはこれでものすごーーーく美味しい!

オレンジの甘みもさることながら、これは胡桃の後引き!

「あの店」のロデヴが好きなうちの母も、

このロデヴは「こっちの方が重くなくて食べやすいかも」とのこと。


もともと好きだったムーラン…だけど、こんなに本店が良かったとは!

今度からは宮の森じゃなくてこっちの旭ヶ丘の方に通うことを誓う。

今さらながら!(笑)




旭ヶ丘から円山の方に歩いて戻る。

円山裏参道周辺にはカフェやレストラン、ショップが点在するけれど

思い出すのはやっぱりこの喫茶店。

この付近はここ10年くらいでマンションがひしめき合い、

風景も道路も変わった。すぐ裏にあった友達の家も今はもうない。

もっと砂利道の多い道だったのに…。


久々に来るからちゃんと見つけられるか心配だったけれど、

その喫茶店のある道は少しも変わっておらず、

突然ここだけが昔にタイムスリップするような感覚を覚える。





古い木造家屋をそのまま活かしたこのレトロな喫茶店は

札幌でも有名なカフェのひとつ。週末は客足が途絶えない。

オシャレで寡黙な店員と客の距離は遠い。

ここではそれくらいクールでもかまわない。そういうものは求めていない。





アイスコーヒーと雑誌を眺めながら、まったりとした時間をすごす。

最近こんなふうにぼーっとした時間がなかったかもしれない。

この店は、雨の日も似合う。

そんなときは、できれば静かであってほしい。

壁にかけた古時計の「ぼーん」という音が響いてほしい。






家に帰ってしばらくしてから夕御飯に近所の鰻屋さんへ行く。

我が家では鰻を食べるというのはひとつの意味があり、

できれば「美味しいぃ〜!」という鰻であればよかったのだけど(笑)、

今夜の鰻は「…?」だったので家族で苦笑い(笑)。






なんだか今日の私は欲張りすぎているみたい。

なんだかじっとしていられなくて、夜は近くの岩盤浴へ…。

最近全国的に流行って来ている岩盤浴だけど、発祥はサッポロだというのは本当?

回数券でなんと1500円程度で入れる。岩盤浴初体験。さて、いかなるもの…。



ガウンに着替えて、低温多湿の室内に入る。

床の上にタオルを敷いて寝っ転がるだけなのだけど、

10分ほどしたら汗がじわじわ吹き出してくる。

この汗は「きれいな汗」で、しょっぱくなく、肌にもいいらしい。


昔、サウナにはまっていた時代があったのだけど、今はサウナが苦手!

お金出してまでなんて暑いところに入らなきゃならないわけ?と思うのだ(笑)。

でも、汗が一度吹き出してくるとそれが面白くて、体中から汗を絞り出したくなる。

サウナほど暑くないので苦しくないけど、

考えてみたら、東京とかで真夏のアスファルトの上に寝っ転がれば同じように

汗だくだくになるような気がするんだけど?(笑)


シャワーから上がって、健康雑誌を読みながらマッサージチェア。

痛いほどに体を揉み砕かれて…心地よい脱力感。癒される〜。

あぁ、帰りたくない(笑)。






翌朝。

お昼にお客さまがお見えになるので、それまでに帰ってくるからと

家を出た先は…そう、近くの山の裏にある「やぎのパン屋」さん。

去年もほぼ同じ日に訪れた、あのお店。

今日はカフェの方はやっていないとのことでパンだけを買いに、またあの山を登った。


父に、最寄りのバス停まで車で送ってもらう。

車でお店まで送ってもらえばすぐなのに、それでもなお手前で降ろして、という私。

車じゃスイッチが入れ替わらない。

トンネルを超えてわざわざ「向う側」に出た、という感覚が大事なんだ。





あぁ、でもやっぱりトンネルの手前まで送ってもらえばよかった(笑)。

バス停からトンネルまでがえらくしんどかったなぁ…。

去年一緒に行った子達は、よくもまぁつきあってくれたもんだ、と今さらながら感謝。


坂を登り詰めたら現れるトンネル。

このトンネルを超えたところに牧場がある。





そしてこっちがトンネルの「向う側」!!

あれ、今日はなんだかとても静か。やぎさんの鳴き声は聞こえない。





やぎさんが一匹、そしてにわとりさんが。

ありゃ、前回来た時よりも静かだね?





今日は課外セミナーをやっているとかで、人はみんな山の畑の中にいるらしい。

とても静かだ。





窯からはもくもくと煙りが立ち上る。

だからてっきりパンが焼き上がるのかと思っていたら、

今日残っていたのは、胡桃レーズンのパンがひとつだけ。

火曜日に焼かれたものらしい。

今日は日曜日だから……5日目のパン?!





5日目とは思えない。

クラムはさすがに乾いているけれど、

クラストの香ばしさには影響がないみたい。

そのまま食べるよりは、丁寧に焼き戻してシェーブルチーズを載せて食べよう。

山羊から生まれたパンだから、そうしたい。





今日はパンを買ってそのまま下山するけれど、

やっぱり山羊のチーズのサンドイッチのランチ、あれをもう一度食べたい。

また来年…。





ここから家まで歩くと、30分くらいで着くかと思ったら全然甘かった。

1時間くらいはかかってしまった。

下り坂だから翌朝の筋肉痛の激しさと言ったら…(笑)。





途中、森林の中のベンチで休憩をとる。

ふと違和感を感じた。

この森では、蝉の鳴き声がなかった。

私は数年前から蝉の鳴き声を聞くのが恐くなっていた。

「夏」の象徴であるあの蝉の鳴き声が恐い。

めまいを覚える、あの鳴き声がこの森の中にはなかった。


それは北海道だからだろうか。

自分でも自覚していなかったけれど、それだけで癒しとなっていた。





小学校の校舎が立て替えで跡形もなくなくなっていても、

景観を遮るタワーマンションが建設されても、

円山公園と神宮の風景は変わらない。

「ふるさと」を離れてから何年も立つけれど、

新しい店が立ち並んでも、古い店がいつのまにか消え失せても

こちら側の些細な変化には、山や公園の緑はまったく動じていないのだろうか。







お客さまが見えていたので、お昼はじゃじゃーん、

すし善の握り寿司!

春に訪れた時に泣けるほど感激したお寿司は、

店内で食べる美味しさ…にはもちろん及ばないけど、出前にしては上出来!

「出前の寿司としては、さすが美味しい」

…うちの両親も味に小うるさいのである(笑)。





東京に戻る飛行機は夕方。

ちょっと早めに出たので空港でご飯を食べて行こうと思ったけれど

魔が指して(笑)、駅前に出来た「らーめん共和国」を偵察(笑)。





パンなら船橋のパンスト(笑)が有名だろうけど、

好きなジャンルの食べ物をテーマパークにされちゃうのは微妙なところがある(笑)。

でも、らーめんならまぁちょっと興味本位で行けちゃう訳で(笑)。

どこも似たような感じに見えたので、有名店に入ってみる。

カップラーメンにもなっているようなメジャー店である(笑)。





夏限定のチゲラーメン。キムチとかも入って辛いのだけど、

辛いだけでなくちゃんと甘みも残っているのが美味しかった。

でも北海道に帰って来たら味噌ラーメンを食べておくべきだっただろうか?(笑)






つくづく思う。

「食」に癒されている自分のことを。

「ふるさと」に帰るときのどうしようもない寂寥感は

何年たっても付きまとうだろう。


でも、今の自分には「食」から癒しとパワーを与えられている。

それは逃げることでもなんでもなくて、ただ、生きるためのパワー。

ここに帰ってくると、私が何を求め、何を感じて、

何から力をもらっているかを実感できる。



だから、「8月」を生き抜くために

私にもう少し、力をください。