23.海と、山と、パンと。 〜8月札幌 3つのパン屋さん〜





今年の札幌は異常な暑さだった。

我が家にはクーラーがないのだが

(というかクーラーのない家庭が一般的)

今年は飛ぶようにクーラーが売れたらしい。

クーラーのみならず、扇風機も売切続出、

街の電器屋からはこの2つは姿を消したという(笑)。

入荷するのは2週間後らしいがそんなに待っていたら

その間に終わってしまうであろう、北海道の短い夏。


最高気温30度以上。

東京でなら驚かないが、冷房のない30度ならば、

東京の方が涼しいかも知れない?!

というわけで、全然涼んでいない、8月の札幌だった。



8月は私の心身を痛めつける。

1年で8月さえなければ…とも思う。

それでも、パンは8月に疲弊した私に力をくれる。

大袈裟な話だが8月の私にとって、パンは「生命の源」である。



あまり時間がない中で、8月の札幌でもパン屋さんには足を運んでみた。

地元の近くのヤギ牧場(?)にあるという謎のパン屋さん、

冬に行って感動した小樽忍路のパン屋さん

札幌へ帰省するたびに足を運ぶ澄川のパン屋さん




*その1*

ヤギのいるパン屋さん


その山はうちからバスですぐ着くところにある。

小学校の遠足でもたぶん通ったことがあるようなところだ。

冬はスキー学習で毎週のように登った山である。

しかし、そんなところに山羊の牧場があるのは初耳だった。

しかもパンとランチを出しているということも…。


その日、2人のお客さん(もとい友人)を連れて

その山に登ることにした。巻き込んだ…という形で。


行きは途中まで車で。

どうせならその山を超え、トンネルを超えるのを

この足でやった方がたどりついた感動が大きいかなぁと

いつもの私の思考(嗜好)だったのだが、道連れになったものは

たまったもんじゃなかったかもしれない(笑)。





うちの辺りはわりと都会であるものの、

ほんの少し西へ行くだけでこんなに山の中になる。

札幌は実は山の多い町なのである。





しかも道を間違えて大倉山シャンツェに出てしまう(笑)。

でも懐かしいな、ここにも思い出がいろいろあるから。

引き返す道中、思い出話などにも花が咲く…(咲いてもないか…)





かなりヘビーな山道を登り、ようやく目印のトンネルまでやってきた。

昔このトンネルは「いわくつき」のトンネルだった。

肝だめしにはもってこいの舞台だったとか(笑)。

今ではきれいに鋪装されている。

ここをくぐったら本当に山羊牧場があるのだろうか?!





(歩いたら)長いトンネルを抜けた。

…ん? どこからか山羊の鳴き声がする!

小さな看板を見つけた。

おぉ、トンネルを抜けたらすぐのようだ。





どんどん山羊の鳴き声が増えてくる。

それ以上にセミの鳴き声でめまいがしそうだ。

空腹と坂道の疲れにはきつく響いてくる。





おーー!!

ヤギさん発見!!

つながれているヤギさんが一匹二匹…。

本当にヤギ牧場があったんだ。

サッポロの中心街に近いこんな場所に…。

三人とも札幌生まれ札幌育ちだが、

こんな場所があるなんて初めて知った。


 


山羊乳で起こした自家製酵母のパンを石窯で曜日限定ながら焼いている。

最近カフェを始めたということだ。





気さくなおかみさんが中でも外でも好きな方でどうぞということで、

豚小屋作りの作業中の横で食べさせてもらうことにした。





うあー♪

かわいい子ヤギちゃん!!

ユキちゃん、いっぱいいるべさ〜!!

(ハイジに出てくる子ヤギ)


 


うさちゃん、にゃんこちゃん、たくさんの動物たち。

他にもブーちゃん、ワンコもいた。

(すごく個性的なワンちゃんだったが画像なし)


 


小学校のようなイスに腰掛け、テーブルクロスを敷いてもらってランチをいただいた。

実はハチがまとわりついて食べるのが大変だったという裏話があるのだが(笑)、

トイレもあまりに個性的で驚いてしまったという裏話もあるのだが(笑)、

画像ではそういう過酷さも伺えないであろう(笑)、

非常に個性的なランチであったのだ。


スープはヤギ乳のモッツァレラチーズ入りのトマトスープ。

ヤギ乳の臭みがそのまんま残っており、実に乳臭いチーズだった。

熟しまくりのトマトの味が濃い!





オープンサンドは…。

ものすごいボリュームだった。

連れの二人は完食できなかったので半分持ち帰りになったが、

私はがんばって食べた!(がんばった(笑))


ボリューム以上にすごかったのは、そのワイルドなお味。

ナチュラル…というよりは「ワイルド」。

野性的な味だったのである。


ベーコンとオムレツとヤギチーズのサンドは、

ベーコンは炭火で炒めているのか、

お風呂屋さんを思い出すほどに炭の香りがする。


チーズがすごく「乳」臭くていかにも手作りの味わい。

「乳」であることをモロ連想させるようなクセがある。

しかし、私はこれはこれで好きだと思った。

(でも、苦手な人は絶対食べられないと思う)


たっぷりの野菜は、いろんなグリーンがてんこ盛りになっているが、

春菊かよもぎか(もちろん生)、

その手の苦味の強い香草が使われているようで

とても強烈なサンドとなっていた。


トマトとヤギ乳カッテージチーズのサンドも

やはり…なんというかワイルド(笑)。

すぐ横に、自家栽培の熟した…を通り越したトマト(笑)が

ころころ転がっていたので、味の濃さがとてもリアルなのだ。



そうそう、肝心のパンであるが、

これはすごく美味しい!!!

がっつりと厚みでハードなカンパーニュなのだが、

クラストの薪のような香りの香ばしさがたまらない。

そのまま食べたら結構酸味の強そうなところを、

クラム塗られたバターのコクにも引き立てられ、非常に濃厚な旨味がある。

そうそう、このあたりなら、小樽忍路まで行かないと

手に入らないような、窯くささとワイルドさがある。

これに、これまたくさーいはちみつとバターなんかを塗って食べてもみたいなぁ!





目をつぶると耳にはヤギの声が飛び込んでくる。

パンを食べながらヤギの鳴き声(そして、におい!(笑))を

聞くなんて初めてかも知れない。

牧場の方をみると、りっぱな角をはやした大人のヤギがのそのそ集まり

こちらの方を見ている。不思議な気持ちだ。

君たちのお乳で作られたパンとチーズを食べているのね、私たち。


パンも買って帰りたかったのだけど、明日もパンを買う予定だったので

今日はこのサンドだけで終わりにしておこう。

だってうちから近いのだから、この牧場は!





白昼夢のような空間を去り、下界(?)へと向かう。

緑の向こうには、札幌の市街地が見える。

帰りは下りなので道のりは楽だった(のは私だけかも知れない(笑))。

私にとって、小さいころを過ごした風景を眺めながら山を下る。

ジンギスカン屋、競技場、動物園…。


そして家の近くにあるチョコレートバーに二人を連れて行く。




最近BARの名前を「RHAPSODY」と改名したのだが、

「チョコレートのロマネコンティ」と呼ばれている

イタリアのチョコレートブランドのショップである。


 


ボリュームサンドで膨れたお腹はまだこなれていない。

今日はチョコレートひと粒とカプチーノのみに。

(ちなみにケーキ類も非常に美味しいのでお試しいただきたい)

チョコレートの贅沢すぎるほどのカカオの旨味に全ての疲れが拭われた。


巻き込んでしまった二人は、

今日のトレッキングは意味のあるものに感じてくれただろうか?

…だとしたら私は心から喜ぶ。

ただのお食事会にはしたくなかったから。

私にはイイ意味で忘れられない一日だった。




*その2*

小樽忍路のパン屋さん〜夏〜


冬に訪れて感動した忍路のパン屋さんにまたやってきた。

15時頃の飛行機に乗らねばならないので、

朝早くに家の車を借り、ひとり小樽まで車を飛ばす。

夕べはあまり眠れなかったのでめちゃくちゃ眠い(居眠り運転)。

1時間半で到着、おぉ…夏の忍路の海!!

眩しいほどに青い。全然冬のその表情とは違う!!





しかし、事前に「パンを焼く」ことだけは確かめていたが、

肝心な「何時から店をやっているか」を

聞いていなかった私は激烈バカ(普通最初に聞くよね?)。

ということで、焼き上がりの11時半まで3時間(!)、

何をして時間を潰そうか…と、とりあえず小樽まで戻る、とほほな私。


15時台の飛行機に乗るには、やばいぞ、ぎりぎりだ。

行きの飛行機で乗り遅れたので3万も飛行機代を無駄にした。

また乗り遅れたらほんとに洒落にならない。

…パンのせいで? パンのために?(笑)

それもそれでいいか、私らしいよな(意味不明!)





小樽ではすることもなくて、運河の辺りをふらふら歩いたり

珈琲屋でうたたねしたりしていた。

道外の、小樽に憧れのある方、小樽でのこんな時間の潰し方を

もったいないと思いますか?(笑)

時間潰しに寿司でも食べていろって思いますか?(笑)

暑さと眠さにやられて何もできない私がそこにいた(笑)。


11時ちょっとすぎに再び忍路に戻る。

これで焼いていなかったら泣くよ、私は!

どうもこちらのお店はマイペースすぎるので(笑)、

いちかばちかのかけみたいな感じだからなー。

(電話嫌いの私はここでも電話で確認しないで行く…偏屈だよな★)





どきどき…階段を登る。

うぅ? 12時OPENなんて看板が出てる?!

うそーーー!! もうタイムリミットだよーー!!

…と、それでもお店に入り、たった1種類だけ出来上がっていた

「酔っぱらったフルーツパン」だけを購入できた。

冬に来店した時にも購入したものの一つだ。

はー。今回は完全に作戦ミスだけど、作戦練るのもあまり好きじゃないし、

これはこれでいいか(笑)。青い海も見られたし!





早速フルーツパンを海を見おろしながら、風に当たりながら

ズスズスっと切り分けてパクついた。





はーーー!!!

ほんっとに美味しいよぉ〜♪

なんてフルーツが瑞々しいのだろう!!

フルーツがひたすらジューシーで、肉々しくて、

果実を噛み切るような歯ごたえがたまらない。


冬に食べた時よりももっと美味しく感じる。

一個しか買えなかったと言うのが、なおさら美味しさを高めてくれたみたい。

なんか、これだけで全然満足。

あまりに美味しくて、一気に1/3個食べてしまった。

もちろん、海と空も一緒にかじりつくように!!


8月は嫌いだけど、北海道の夏が好き!

また今度来られるのは冬かも知れないけれど、

また来年、空と海の青さに囲まれながらパンを食べたい。




*その3*

町のパン屋さん〜澄川アンシャンテ〜


小樽から高速を飛ばす。

意外にも家まで1時間強で帰ってこられたのだ。

しめしめ…これはいいことを覚えたぞ(笑)。

たまの運転は楽しい。

たまの高速道路でぶっ飛ばすのはストレス解消!


おかげで危うくなっていた「澄川経由でパンを買って空港へ」

プランが大丈夫になった(笑)。

車で空港に向かう途中にアンシャンテに寄ってもらい、

心置きなくパンを買って帰ることができた。





ハード系の美味しさは私の中では札幌で一番。

(札幌中のパン屋さんに行っているわけじゃないけど(笑))

今回初めて買った中でぐぐっときたのは「クランベリーノワ」。

クランベリーと胡桃のゴールデンな組み合わせに加え、

なんとキャラウェイ入り。

具がそこまでぎっしりではないのに、

隅々まで胡桃の旨味が強力に感じられるのは、

大部分を占めるパン生地部分が美味しさの所以。


  


ここでは懐かし系菓子パンもしっかり押さえよう。

クリーム系はちゃんと自家製。

バニラビーンズが効いたクリームってそんなに好きな方じゃないのだけど

ここのは乳臭さがないのがいい。ぷるんぷるんした上品な甘さのクリームで大好きだ。

今回初挑戦のチョココロネの美味しさにも驚いてしまった。





飛行機の中では日替わりの杏デニッシュを♪

バターの甘さが効いた生地と、歯切れのいい杏と

クリームの組み合わせが最高!


はー。…つくづく何を食べても美味しい…。

何をやらせても上手な人っているのねぇ(笑)。




先日、恵比須のタイユバンロブションTR)が閉店したのだが、

そのことでやはり思い出すのはここの店のことだ。


この店のシェフも、かつてTRでシェフを務められていた。

パンの内容こそ変われど、その腕前は本物。

少なくとも札幌ではこれまで味わえなかったハード系が食べられる。


なぜこの店が好きか…。

それは、私が大好きな水海道のNさんに通じるものを感じるからだ。

両者とも、都会であれだけ腕を奮っていたのに、

田舎(失敬)に戻って小さな小さなパン屋さんを開いた。


ハード系の美味しさはそのままに、

それに、ごく普通の町のパン屋さん、として

馴染み深い「町パン屋」のパンもちゃんと作っている。

地元のお客さんのことを思っている証だと私は思う。


作るパンの種類は少ないけれど、

奇をてらったパンはここにはないけれど、

それでも私は札幌に来るたびに、この店に必ず寄ってしまうのだ。

「ハード系が美味しい店」という店としてだけでなく

「町のパン屋さん」としてのこの店に。


TRが、その後「ロブション」になったとしても、

そこで働いていたシェフたちが変わったとしても、

そのシェフの「腕」が変わるわけではないだろう。

よそへ移っても、その「腕」があれば、

あの感動的なパンにまた会えるだろう。


そして、私はまたその店を追い掛けて、足を運ぶ気がする。

いや、たぶん、それがどこであろうと。



***



私は羽田からのリムジンバスの中で

パンの匂いに包まれながら東京タワーを眺め

東京に帰ってきたことを実感した。



パンは

どこに行ってもパンは

私に力をくれる。


8月」に負けそうになる私に力をくれる。

日ざしの強さにめまいを覚える時

セミの鳴き声に飲み込まれそうになる時

私はこのHPのタイトルにもしている言葉の意味を思い出す。


この世にパンがある限り…。

私は「8月」に負けない。