87.一生に3日間だけの2007年夏〜札幌パン




8月、ほんの3日間だけど、実家のある札幌に帰省した。


あいにくのグレー空だったけれど蝉の声も遠く、

冷房がなくても自然のままでそこに居られる。

東京との気温差は10度くらい…

東京が異常なのか北海道が涼しすぎるのか。


北海道の短い夏と同じくらいに、

私の北海道の夏は短い。

今年も夏の札幌パン屋さんを駆け巡る。

何も触れずに、淡々と、私はパンのことを書き残していく。

…それがいつしか私の中で定着した、その年の札幌の夏のとどめ方。






今回の帰省はバタバタしていたので空港からの行き帰りも貴重な時間。

空港から自宅までの途中にいったことがないパン屋さんがあるので、

帰省の度に会う高校時代の友達とわざわざひばりが丘まで呼び出した。

久々に会う場所がひばりが丘(相当郊外(笑))、

しかもパン屋ってアンタ、ちょっと合理的すぎ(笑)





駅からは近いけれど周辺にはなにもない住宅街のパン屋さん。

小さいけれど中にはカフェスペースも有り。





ご夫婦が二人でやってらっしゃる手作り感、地元密着感の強いパン屋さん。

ネームプレートの横に人気何位、と書かれているのも選びやすい。

人気はカレーパンだそう(具が大きめだった)。

具材が自家製中心というのも意外とありそうでないからなー





サンドイッチはパンと挟む具材を選んでオリジナルを作ってくれる。

私はベーグルにミートローフ、レタス、トマトを。

友達はクロワッサンに卵(注:オムレツだった)を。

ミネストローネスープもつけて、簡単なランチを…。



友達は、私が以前お薦めしたパン屋さん(マデュース)にも

行ってみたらしい。「友達に薦められたんです」と言ったら

「東京の方ですよね?」と私のことを覚えていてくださったそうで

ああ、一刻も早くマデュースいきたいよー。最終日には絶対。

…それにしても、あーた、いつからそんなパンに興味持ちはじめたの?!



友達の話では、星置のココペライさんがうちの近所に移転したらしい!

近所…といっても、歩くとちょっとあるけれど、

でもでも歩くだけがとりえの東京人には徒歩圏!!(こっちの人には車の距離だろうなぁ)

時間あまりないけど、ちょっと行ってみようか???






しかし自宅に客人がいらっしゃる時間が迫っていた。

ちょっとココペライさんまで行く時間はないので、

そこよりももう少しうちから近い場所にある、とあるパティスリーに行ってみることにした。

うちからもかなり近い場所にありながらも、

その存在をまったく知らず、この店のことを東京のグルメさんから聞いたのだ。


それが、パティスリーシイヤ。


depuis2002って?! そんな前からあったなんて!!

札幌にはそれほどピンと来るケーキ屋さんがなかったのだけど

(私がスイーツにあまり興味なかっただけかもしれないが…)


ここのケーキは他と違う!

どこか都会的で洗練されたセンスは、今まで札幌になかったタイプ、ずば抜けてる。

なのに価格だけは札幌的! こんなケーキたちが300円台で買えるなんて!

東京なら平気で600円とかつける店あるよ…


マカロンやコンフィチュール、焼き菓子もたくさん並んでいる。

我が家のお土産の定番、マサール(札幌の人気ショコラティエ)出身なんだそうな。





カフェスペースでのみ食べられるパフェもあるけれど、

私たちはショーケースにあるものを選んだ。

友達はタルトフレーズ(一体何種類の赤系フルーツが乗っていただろうか! すごかった)

私は桃とフランボワーズの入ったクレームブリュレのようなお菓子。

提供される前にバーナーで焦がしてくれる。

パキパキッと表面を割ると、滑らかなとろとろクリームに、

コンポートされた旬の桃とフランボワーズがたっぷり入って、

その旬度、瞬度の美味しさに鳥肌…!

めちゃくちゃ美味しいよぉぉ。。。


しかもコーヒーも超良心的なお値段で、コーヒーと合わせても600円程度。

…これは帰省の度に通わなきゃならない、、、

短い帰省でそういう店が増えるのは嬉しいような困るような…。





客人たちにはここのシューアラクレームをお土産に。

お土産=自分が食べる予定(笑)、早速帰宅後にもちゃっかり食べている私。

ここのお店でパンをもし今後焼くことがあったら

ますます困りそう(笑)。







去年の帰省時にはじめて来訪したパン屋さん「アンジュ」に再訪。

06年夏はこちら





前回食べた惣菜パンが相当美味しかったのでそれを目当てに行ってみると

毎日しっかりパンの焼き上がり時間が決まっていて

午前中のこの時間は、まだ惣菜パンはなく

クロワッサンや練り込み系のリュスティックのみだった。





でもあまりに美味しそうなクロワッサンは撮らせて頂かずにはいられなかった!

(わざわざ綺麗に並べ直してくれようとしてくださったお店の方、親切!)





客人用に少し多めにクロワッサンを買ったのだけど

間に合わず、結局自分で食べることに(笑)。でも安いからいいのです。

久々に120円程度のクロワッサンを食べるわ…サッポロの物価の安さに泣ける。





レーズンとクルミのリュスティック。

ブルーベリーとクルミのリュスティック。

どちらもクルミの無骨なほどに素朴な風味がダイレクトに広がる。

小さなスコーンも、ジョリジョリとした麦の外皮の香ばしさが美味!





得意の(笑)歩き食いであっという間になくなってしまったのは

クロワッサン。食感はふわさっとやわらかくて正直歯ごたえはあまりないのだけど

甘みが強く、ふんわりとした甘い後味がすっごく美味…!!!


ああ、Parisで食べるクロワッサンってこういう感じのものが多かった。

食感はともかく、後味と余韻の甘さにいつまでも浸れる、

「バターって甘いんだね」と思えるクロワッサン。

これが126円で食べられるのは、札幌とフランスくらいかな。

あ、今はユーロ高だから無理かもね(笑)






*海のパン屋さん 過去ESSAYはSITE MAPを参照ください *



最終日に買いに行こうと思っていた海のパン屋さん。

予約でもしようと電話してみると、明日は定休日だって!

うそ、それは困る! 来年までお預けなんて無理!

「今日」はどこにもでかけない予定だったけれど

これは非常事態、急遽クルマに乗り込み、雨の中高速を飛ばしてかけつけた。


そもそも当日の予約は現在受け付けていないみたいで

(前日だったらどうなのだろう、ちょっとそれはわからないので各自ご確認の上来店してほしい)

行ってみて何もパンが無かったらそれこそ凹みそうだけど

とにかく「行く」ことが第一で





雨はあがったけれどあいにくの曇り空。

これまでも何度も夏に訪れているけれど、

初めてかも知れない、こんな色の海と空を見たのは。








窯の側に積み上げられている薪用の木たち。

これがすべて燃やされ、パンとなる。

あの焦げた独特の風味を生み出す。

そう思うだけでも、この木たちすら愛おしく見えてくるのが不思議。





ほっ…! よかった!

2時半に一度また焼き上がるって聞いていたから、

急いで高速を飛ばしてよかった。

フルーツのロデヴだけはもう既になくなってしまったのが残念だけど

クロワッサンも、酔っぱらったフルーツパンもあるから大丈夫!


…!!!」

ト、トマトのパンがあるーー!!!

このパンは、いつも忍路出身の常連さんに美味しいと薦められていたのに

一度も遭遇したことがなかったパンだった。

ああ、6度目にしてようやく会えました…

迷わず、包んで頂いた。





グレーの空と海にカラダを向けて、トマトパンを開いた。

オリーブオイルに漬け込んだセミドライトマトがたっぷり乗ったパン。

下にはオニオンがたっぷり敷き詰められ、オリーブが乗っている。

最初、フレッシュトマトオンリーかと思っていたけれど、

それでは説明できないほどの味の濃縮っぷりだったので…。


うわぁ……!!!!

ああ! ああーー!!!

すごい!! すごい美味しさ!!

うわ、うわぁぁ…。周りに誰もいないことを幸いに

私は、嗚咽を外に漏らしていた。

おっいしすぎるよ、これーーー!!!


トマトとオニオンの尋常じゃ無いほどの甘さ!!

トマトがトマトの限界をこえるくらいに甘みを濃縮して

香り高いオリーブオイルでさらに甘さを上り詰めさせていた。

エキスの染みたパン生地はもう、ふにゅふにゅになっているのに

かすかに、たしかに、香る香ばしさが、エグヴィヴたらしめてる


あまりの美味しさに、ほんとに一気に食べ切ってしまいそうだった。





大きなぶどうパン。

なんか一個だけ撮るとイマイチわからないだろうけれど

このパンたちがいくつか固まって積まれているのを見ると

本当に卒倒しそうなくらいに美味しそうなんだ。





最愛のフルーツロデヴが売り切れだったので代替にプレーンなロデヴを。

がっちりと焼かれて固い表皮の内側には、つやっとした大きな気泡のクラム。

あの木たちが炎となり、このパンの表面に香ばしさを刻み付けた。

その香りがこのパンの最大の持ち味なんだと思う。


「少し難しいかな」

そんなことを思いながら

あまりパンに興味のない人にこのパンを食べさせた時、

素直に「このパン、美味しいなぁ」と言われた時。

実はかなりジンと感動した。





木箱入りのよっぱらったフルーツパンも

毎回毎回購入しているマイフェイバリッツ。

どこに何のフルーツが潜んでいるからわからないから、

ついつい全部自分で一人占めしたくなる

ごめん、お裾分け目的でもあったのに、私と母で分け前してしまったわ。





何度も書いているけれど

私が日本で一番好きなクロワッサン。

いや、世界で一番といってもいい。

このクロワッサンのために北海道に帰省しているといったら

私はどんなに不義理な人間に思われるだろう?


しかたないよ、このクロワッサンが美味しすぎるのだから。



たまたまその夜いらした客人とフランスの話になり、

フランスに住んでいた時はいつもクロワッサンを好んで

食べていたという話を聞かされた。

そこでこのクロワッサンをちょうど一個食べてもらった。

その客人のなんと美味しそうに食べること…!

日本でもこんなクロワッサンが食べられるなんてと、

あれだけ食事をした後なのに、ほんとにぺろりと食べてくれた。

すがすがしいほどに…。



母も大好物の海のパン屋のクロワッサン。

トマトパンもかろうじて半分残して、母に食べさせたら、本当に悶絶していた。

トマトのパンもクロワッサンもフルーツパンも、

やっぱりここのパンは「別格」と

私もそう思う。申し訳ないけど、そう思う。


このためにクルマ飛ばして買いに行くと言っていた。

「パン、東京に送ってあげるわよ!」

そういう母に私は、ぐぐっと押えて答える。

「直接買いに行かなきゃ意味がないよ、ここのパンは」と。


そう、来年また、私がこの場所に来て買うこと。

それが私の中の北海道の夏だから








私はクルマの運転が嫌いじゃない。

けれど、どうしてもいつも眠さに負けてしまう。

帰りにどうしようもなく眠くて休憩に入ったのは

知名度的には全国区になりつつある某ベーグルショップ。

本店工房のすぐ側に、カフェができたのであるが


あれ? この場所って前にモスがあったのよね?

小さい頃によく小樽方面から家族でクルマで通る時に、

ここでモスを食べていたのに

モス感覚で立ち寄ると、ここのサンドはちょっとお高く感じてしまうかも。





そういうわけでどこかファストフードの面影を残しつつの

ベーグルカフェ。レバペとピクルスとオニオンをサンドしたベーグルサンドは、

レバペがあまり好みのタイプじゃなかったので、ベーグル単体で食べたかったかも。

サンドでは把握しきれないけど、「一等粉ベーグル」は

なるほど実に「マコ味」だった(笑)。

粉の甘みの強いマコ味。マコよりちょっとむちっと軟らかめ。


あ、この地産のトマトジュースは濃厚で少しレモンの酸味が加わって

めちゃくちゃ美味しい!!! おすすめ。







最終日もまたまたぴゅいっとクルマに乗り込んだ。


大好きなパン屋、マデュースに行く前にもう一軒。

ここも好きなパン屋さん、アンシャンテさん。


実は、距離的にはマデュースとあまり離れていない。

アンシャンテ自体は場所を記憶しているからクルマでも歩いても来られるが

マデュースとの位置関係がわからない。

こういう時に、携帯電話のGPSが役立つのだ…

うちにはカーナビがついてないからだ(笑)




ここに来るのはひさしぶり!

相変わらず「フランスパンの正当な美味しさ」は札幌でも随一だと思う。

ここのエピを悶絶しながら食べたのも、

ほんとに久々だ〜。





ここのエピの美味しさは、生地の美味しさに加えて、

マスタードの美味しさに尽きると思う。

あまり酸っぱく無い、むしろ甘みを加えているのではというほどに

味わい深いマスタードがベーコンにすっごく合う! ホントに旨いーー。

ソーセージフランスも私の中の定番。


新製品のネクタリンのデニッシュも、酸味と甘さのバランスが美味〜。








*前回の来訪はこちら、07年正月


近年、私の心をわしづかみのパン屋さん、マデュースベーカリー。


インテリアショップの中にあるパン屋さんで

まるでそのインテリアの一部と言えるくらいに

美しく完成された絵になるパンたち

…それ以上に味がこの上なく美味しいことを私は知っている。



彼女は前回、正月の帰省時に来訪したことをなんと覚えていてくださった。

私の紹介で来訪した友人が話していた通りだった。

ほんとに東京からの私を覚えてらっしゃった?!

そこから話が弾み、彼女の驚くべき「お客さま記憶力」に感心!

そこで思いがけない名前やエピソードがいくつも出て来てびっくり。

「私、その人知ってます(笑)、知り合いですーーー」

何人も何人も「知人」が登場して悲鳴の連続だった。


みんな知ってます……って、私ってあやしすぎるな(笑)


というわけで、もしこちらのお店に言ったら

ぜひぜひ「この世パンみました」とでも言って、話のきっかけにしてください(笑)

そしたら次回私が来訪したときに話が盛り上がるので☆(おい)





今日は初めてカフェの方でいただいてみた。

本当はお野菜つきのランチプレートも惹かれたけれど

とりあえずスープ(スコーン付き)で。





いつもなにかしら新しいパンに出会える。

季節の恵みだけでなく、いただきものや美味しいものたちとの出会いを

パンに取り入れているからなんだろうな。


「ほっくりな豆パン」も、美味しい豆との出会い、そのエピソードが

食べる私たちにも間接的に共有させてくれる。


「バジルとペッパーのフーガス」は、ワタシ好みの少しオリーブオイルが効いた

カリカリッとした食感の酒のアテパン!やっぱり酒か(笑))






彼女の焼くパンの色がとにかく好きだ。

小さい頃に読んだ金色きつねの物語を思い出す。

金色に輝く肌をみると、金色の小麦畑までも思い出してしまう。


トルネードされたカタチがユニークな

「トマトのカンパーニュバゲット」は、去年食べて感動した

トマトベーグルを思い出しながら選んだ。

あのベーグルも絶品だったけれど、このバゲットもトマトがぎゅっと

味濃くて美味しい…。





そして期待通り期待以上に美味しかったのは

「バナナミニ山型」。小さな角型で焼かれたパンは、

バナナをすりつぶし、少し果肉も残して混ぜられたものだけど

ほんっとーーーにバナナそのまんまの甘さで絶品ーー!!!

こちらのパンに共通する、印象的な酸味も、ちゃんと存在しているのに

バナナの甘みもはっきりくっきり伝わってくる。美味しいぃ〜。


もう、この表皮の質感を見ればどんな味わいか、伝わるでしょう?





お店を出る時に、思いがけず渡された小さな小さなパン。

はと麦を混ぜた、ハト型のはと麦パンなんだそう!

うわーーーん、手のひらにちょこんと2匹仲良く乗っかって!

つい、「ひよこ」と心の中でつぶやいていたけれど

ああ、ハトだったわね(笑)。


表皮はカリッと、中はもちっと、そして酸味の効いた生地。

こちらのパンに共通する特性に加えて、

このパンはなんといってもローズマリーの香りがたまらない!!!

美味しい美味しい! これ、止められない、美味しすぎマス!!!

ごめんね、二つとも食べちゃうよ、

ひよこちゃん(もといハトちゃん)。









千歳空港に向かう途中、恵庭のサッポロビール工場併設のジンギスカンにいった。

母が運転してくれるので父と私は遠慮なくぐびぐび飲む。

いやーーーほんっとにサッポロで飲むサッポロ黒ラベルは、なまら旨い!

どうもここではエビスを飲む気にはならないのよね(笑)





とはいいつつも、両親も私も意見が一致していたのは

「生肉ジンギスカン好きじゃない」

ということ(笑)。

そう、道産子である我々にとってのジンギスカンは、

丸くて薄くて凍ってなきゃいけない(笑)

どうも、このタイプの生肉ジンギスカンは

「東京で主流のもの」という気がしちゃうのだ(笑)


それでも美味しく楽しく、親子水入らずの晩餐だった。

ああ、もう私が東京へ戻らなきゃならない時間が迫っている。

3日間というのはなんて短いんだろう…!


私の人生の中でどんどん東京での生活時間が増えて行き、

札幌で過ごした比率が小さくなっていく。

1年でたった3日間の札幌の夏。

そのことに無性に申し訳なさと寂しさを覚えた。


来年の帰省は、もう少し時間がとれるといいな。

あれも食べたい、これも食べたい、

というばかりではないけれど…(笑)







年に1度、私はその1年間、どんな1年だったかを振り返る。

それは正月でも、自分の誕生日でもなく、

この8月の札幌の時。

私はどんな風にこの1年を生きて来られただろうか、と?


そして、やはりいつも思うのは

私はパンに生かされている。

パンに支えられている。

パンを通じて出会う人たちに支えられている。

もちろん、それ以外でも。

楽しかったことしか思い出せないことに改めて驚かされた。


「今が一番、これまでの人生で幸せなんだ」と

悲しくも痛感するのは、この札幌の空の下なんだ。

去年よりも、

今年よりも、

きっと来年の私はもっと幸せなんだということを。

それは決して、不義理なことなんかじゃないということを。

2007.8.5〜7