61.さよなら3月また来て4月! さよなら“水海道”Nicolas




これまでの水海道ストーリーは、SITE MAP「その他首都圏」から検索を。

そういえば半分以上が水海道ネタです(笑)。DIARYにも頻繁に登場。

…水海道に通うことでどんなパン屋も遠く感じなくなります、不思議と(笑)。



私のパン人生の「喜怒哀楽」の 常に中心にあり続けるパン屋。


それが水海道Nicolasだった。

いつだってその類い稀なるパンのセンスに感動させられ

ぶちあたる困難にこちらまでハラハラさせられ

応援する仲間たちとの他ではみられぬほどの絆の強さ、共有した時間。


いつも、もっともっと何かに挑戦しようとする若きシェフの

その動向に目が離せなかった。

次は何をするんだろう、

次は何を仕出かしちゃうんだろう、と。



「守谷に拡張移転するんですよ」

そのことを聞いた時、正直なところ祝福よりもショックの方が大きかった。

水海道のお店がもうなくなってしまう…?

あの思い出の詰まったあの店が…?

いつもずうずうしくロフトの二階におじゃましては日が暮れるまで

熱くパンの話をくりひろげたり美味しさに悶絶したり


私の中では、水海道のお店は単なる「パンを売る店」ではなかった。

どんなにたくさんのパン屋に出会ってもその存在は他とは違う

自分の中のシンボル的存在のパン屋。



勝手ながら「もう食べられなくなる!」とも思ってしまったのだが

その不安を払拭してくれたのがニコラ塾リュスティックの回

そのとき思ったのだ。

変わることを応援しよう。

カタチは変わるけれど、きっと変わらないものがある、と。


だから、「水海道」とお別れをしよう。

あの二階でお別れをしよう。

3月の中旬のとある土曜日。

ニコラを愛する仲間で最後の水海道へ向かったのだ。


…ニコラのことになると文章が長くなるなぁ、熱くなるなぁ、私ってば(笑)





ニコラ食堂との掛け持ちや新店舗の準備、もろもろと

超多忙のシェフのことだから、会えずとも仕方ないかと期待していなかったが

おぉ! ナイスタイミング、本人焼いているし!





予約は入れていないけれど、あれが食べたいこれが食べたいみたいなものはあった。

奇を衒ったものではない、一番オーソドックスなニコラ味のパンたち。

そう、それがバゲットであり、クロワッサンであり、フリュイであり、リュスティックだった。





うわっ…!! 久々のクルミコショウ!!!

私、実はフリュイ以上にこのパンが大好きでいつもいつもこれを食べていた。





メロンパン3兄弟もいつもと同じようにおりこうさんに並んでる。

あんぱんもーーっ。いつもいつもメロンパンたちの隣でおりこうさんに並んでる。





画像はあえて撮らないけれど、

リュスティック、マンデルブロート、フリュイ、セロリチーズなど

愛して止まないパンたちもしっかり買い込めた〜〜

星はいくつあってもたりないパンたちなのだ。

★★★★★





な、なんと…!!

なんていうタイミング、クロワッサンが今焼き上がりーー!!

あわわあわわ、ほんとにクロワッサンが最後にここで食べられるの?

あわわあわわ、来てよかった、生きててよかった…!





しかもマガジーヌまで…!!! あわわあわわ、今日はなに? バター漬け?(笑)

あわわあわわ、来てよかった、生きててよかった…!こればっか(笑))





そして…!! 今クープを入れているのは…バゲット?!

わーーん!! 私が一番好きなバゲットニコラー!!!

焼き上がるまで、ほいじゃ早速上にのぼるから!!


今日は「いつもよりは」片付けられていた2階の休憩室。

3年前からずっと変わらないこのマットも見納め…。


うるうる…。


…ぶんぶんぶん!

泣くな! 今は感傷に浸ってる場合と違う、食べるの、食べるぅーー!





お別れ会…といっても、別にいつもと同じ。

買ったパンをひたすら食べるだけ。

食堂とは違って、美味しい料理はないので買って来た惣菜とビールで(笑)。

(あぁ、嘘ですー。一品だけ仲間が手作りしてくれたお惣菜もあったんだった、美味しいよぅぅ)

クルミコショウは旨すぎる、旨すぎて惣菜を食べるお腹の隙間がもったいなくすら感じた。





焼き立てのバリバリクロワッサンは

これまでも何度も書いているが、一枚一枚存在感のある層はまるで揚げ春巻きのように

パリンパリンと剥がれくだける…! そしてもちもちっとレアにすら感じる甘い甘いクラム…!

後から甘みがじんわり広がっていくのを感じると、

次の一口を口にすべきか、

このまま余韻を楽しんでおくべきか、

その狭間で大いに悩むのだ…といいつつあっけなく食べ終えてしまうのだが。





思いがけないおまけも転がり込んで来た!(というか、クロワッサンが食べられただけでも思いがけないが)

うずまきクロワッサン!!! うわーーん、このフォルム、

当サイトESSAYの記念すべき1番で登場している、あれなのだ!

クロワッサンと違うのは、その食感。

クラムのモチモチ感が同時に味わえるのがクロワッサンだとしたら

ひたすら層のパリパリサクサクを味わえるのがうずまきクロワッサン。





下からいい匂いがただよってきた。

バゲットが焼けたんだー!! わあんわあん、これが食べたかった、他のなによりも!

ニコラのバゲットは他では絶対味わえない、かき餅のような甘みと独特の食感。

至極クラストが薄くて、いわゆるパリパリとした感じではない(むしろ鈍い)のに

押したら跳ね返すようなぽこぽこクラムの弾力感とのコントラストがすごいのだ。

…そうね、低反発テンピュール枕のように(笑)。

どんなにたくさんのパン屋をめぐっても、このバゲットはあまりにオリジナリティに溢れてる。

だから、私はこの水海道までわざわざ通っていたんだよなぁ…。

あぁ…ほんっとに美味しいよ、美味しい美味しい美味しい!!

今日一番美味しいと思うのはやっぱりバゲットだったよ!!





私たちがバゲットを食べていると、1人のお客さんが来店した。

あぁ…! あの少年は…!

そう、ニコラ塾で出会った、水海道在住の高校生の男の子だった。

ニコラのパンがきっかけでパンが大好きになったと言う彼のことが

あの日一番印象的だったのだ。


もちろん私たちのことも覚えてくれていた。

HP見てます」と、恥ずかしそうに顔を赤らめながら挨拶をしてくれた。

あぁ、ほんとにひとりでパンを買いに通っているんだね。

残念だね、この店が移転しちゃうなんて。寂しいね…。


でも、きっとそれはシェフも同じ気持ちだと思う。

この店を愛してくれた地元の人たちと別れることが…。




上から見下ろすこの風景を、忘れない。

さわると少し鉄の臭いが手にうつる手すりの階段、忘れない。

焼き上がるパンの匂いが立ちこめるこの空間を、忘れない。






正直なことを言うと、

3年前、水海道のこの店がオープンしてあのパンたちに再会した時。

東京の半蔵門のお店が閉店するまぎわの

「神がかったような尋常じゃない美味しさ」にはやっぱりおよばなかった。

たとえ水海道でのパンが、どんなに美味しいパンだとしても

あの時のあの味は別物だった。尋常じゃなかった。

もう会えないのかな、あの味には…と、最初の頃は少し切なくもあった。


でも気付いた時にはもう忘れていた。

そんなことはどうでもよいことだった。

水海道のパンたちは、新しく産まれていく水海道のパンたちは

他のどこにもない、ニコラの味になっていた。

いつの間にか「あのころのパン」の残像にとらわれなくなっていた自分がいた。

ここのパンが、この上ないものになっていた。

今、ここにあるパンたちこそが、ニコラのパンだったのだ。

今、このパンこそが、私たちを魅了してやまなかったんだ。


そしてもうひとつ。

業務が拡大した分だけスタッフの数が増える分だけ

なにか変わってしまうのではとも心配したけれど

大丈夫って思わせてくれたのは、八王子のあのお店

この店から巣立って行ったパンの味は、

確実にニコラ味を継承していた…そのことが本当に嬉しかったんだ。

大丈夫、大丈夫と!!



だから

今はカタチを変えて水海道からさよならするけれど

思い出は思い出のまま、新しいニコラに出会えることを喜ばなければ。

きっと、きっと、再会できる。

「やっぱり今のニコラが一番だよね!」と笑っている自分に。




あぁ! 今なんとなくわかったよ!

これってこれって

「娘を嫁にやるときの頑固親父の気持ち」


「移転する」それを聞いてショックを受けた私も

素直に新しい門出を祝うことに躊躇した私も


そういうことだったんだ、こういうことだったんだね。

うんうん、きっとそうに違いない?!

(ってどういうたとえなんだか(笑))


…はぁぁ。

やっぱりただのパン屋じゃないよね、

私をこんな気持ちにさせるパン屋なんて。

絶対他にないよね、ありえない(笑)。