-1.バレンタイン札幌帰省 〜地元でフレンチ編〜




バレンタインの日というのが笑ってしまうけれど、

所用があって札幌へ帰省することになった。

ついでに(というかメインになってしまったが)

小樽にある温泉旅館にも行くことになった。

もちろん、「あの店」にも行きたい。小樽の石窯のパン屋さんに…。



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昼に札幌に到着。母とステラプレイスの喫茶店で待ち合わせ。

待ち合わせたのは、モバーガー系列の紅茶店。

東京にももちろんある店だが、札幌ではとても流行っているのだ。

東急の地下にある店鋪で焼かれているミルフィーユに行列ができている。

東京じゃせいぜいワッフルの店…という程度の知名度なのに。

札幌らしくスープカレーのメニューもあり。




ここではストロベリーティー(フレッシュ苺をたっぷり入れた紅茶。

香りがとても良くてミルクティーがよく合う)を頂きながら、

これから出かけるランチのプランニングをする母娘。






母は昔からグルメな人である。

フレンチ好きな母に、札幌のあらゆる店に連れていってもらった。

私のパン好き、フレンチ好き、いや、美味しいもの好きの血は明らかに遺伝だと思う。

私が上京してからは、外食する機会が半分になったとかで、

せっかく娘が帰省しても「おふくろの味」はひと休み(笑)、

帰省するたびにまた新しくレストランを開拓にいく母娘。

で、今回私が行きたいと思っていたのは自宅からほど近い店だった。

わざわざ駅まで迎えに来させたのは申し訳なかったけれど…。



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「健康」という名のこちらのお店は、宮の森にあるオーナーシェフの店。

こじんまりとした、カウンター席もあるきどらないスタイルの店である。

マダムは元パン職人というのももちろんチェック済み!



メニューを見て驚いた。

一番下のコースが1600円であるのに、

フルコースにしてもたったの2800円だ。

お腹的にはハーフでもよかったのだが、

「たった800円しか違わないならこっちでしょ!」と見解一致。

シャンパンをつけて店内の様子を眺める。




家族連れも多く、いたってカジュアルな雰囲気。

カウンター席もあり、一人でも全然構わないだろう。

アラカルトとワインで軽くいただくなんて使い方もいいだろう。


カウンター席には、50代くらいの男性が一人でワインを傾けていた。

風貌はまじめそうな高校の先生といったような感じで、

私と同じようにデジカメで料理の撮影もしていた。

料理を、ワインを、小さくうなずきながら楽しんでいた。

そして、料理を待つ最中にテーブルに飾られた花を慈しむように眺めていた。

なんて優雅な休日の昼を過ごせる男性だろう(風貌とかではなく)。

こういう人が一人で気軽に楽しめ、似合う店なら、きっと間違いない。




あつあつに焼き温められたパン。

外はカリッと、中はきちんと水分が保たれてふんわりむっちり。

ライ麦の香ばしい香りがストレートに広がり、実に美味!

ソースをぬぐうなんてもったいない! と思わせる、

こういうパンが出されると大変なのだ。料理が出てくる前に満足してしまう。


 


オードブルは2種。

左の自家製羊のソーセージは前菜には少々重たかったが、肉汁がジュワッと溢れる一品。

右は、菜の花、タケノコ、海老、ホッキ貝などをソテーしたもの。

どの素材も実によく旨味を引き出していて美味…!!

バターの香りと素材がよくからみ合う。

温製のオードブルで味わう春の息吹。絶品だった。




キャベツとジャガイモのスープ。

これも、両方の素材が実に見事にイーブンに味わえた。

キャベツの風味がここまでしっかり味わえるスープは初めて。



魚料理は甘鯛。

ウロコがハリネズミのように立っているが、そのままいただく。

このウロコ、油を回しかけながら焼かれたものらしく、

まるでウロコだけ外して揚げたかのようにパリッパリと小気味よい音を立てる。

身がとても甘くて、ワインとビネガーが効いたスープが独特。

母がこの皿を絶賛していた。私も口にしたことのない類。



口直しのグラニテまで印象強い。

アニス・リキュールの爽やかな甘さにため息またひとつ。



魚と肉と、両方いただくと、たいていの場合は

「こっちの方がおいしかったな」と優劣がつけられるものだが、

ここに関してはそれができなかった。

この牛スジの煮込みすら絶品だったのだ…!

クニュクニュと口内で踊るスジ肉、

トマトソースはオリーブオイルの後味がとても強く実にまろやか…。

しびれるほどとろけてしまった。

確かによくあるメニューではあるとはいえ「こういう味が食べたかった!」という

こちらの希望がそのまんま出されたような味付けだった。



いくつかからセレクトできる場合は必ず違うものを頼む私達だが、

デザートは一致してしまった。オレンジのスフレ。

添えられているのはホワイトチョコレートのアイスクリーム。

味はとても美味しいのだが、やや同系統のものが並んでしまったので

タルトなどにしておけばよかったかもしれない。



この内容で2800円だなんて信じられない。

私はたぶん、魚の時点でストップしたとしても2800円出せる。

それくらいに一つ一つが丁寧な造りだった。

なによりも、気取りのない店の雰囲気が

「今日はちょっと美味しいもの食べに行こうか、近所だし!」と

ふらりと訪ねさせてしまいそうだ。

マダムたちのランチのたまり場というよりは、

先に述べた「男性でも一人で気楽に入れる」店。


札幌ではあちこちの店を食べたが、

味と値段と「自分」とのバランスが一番よく取れていた。

(コードールやル・ジャンティムやモリールは「非日常」だ)

こんな店が近所と知っては、ますます「おふくろの味」が遠ざかる(笑)。



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この店のすぐ並びには、私の行きつけのパン屋さんがある。

「ムーラン・ド・ギャレット」。


 


札幌には3店鋪あるが、かつてはこの宮の森店にも厨房があった。

今は昔の店鋪の通り向いに移転し、パンは別店鋪から運んでくる。

東京ではいくらでもある類のパン屋とはいえ、

札幌ではあまりないのだ、フランス系とドイツ系、両立しながらそこそこ美味しい店は。

(画像は今まで撮っておいたものを掘り出してきた(笑))


明日の朝ご飯を調達♪

GALLERYのブルーベリーで紹介した松の実入りパンは私の定番。


うちの住むエリアは、昔からパン屋の激選区と言われていたエリアだった。

地蔵商店、ブルクベーカリー、円山ベーカリー、かつてはドンクもあった。

HOKU★もあるが、私はここのせいでかつてはクリームパン嫌いだったのだ(笑))


東京での私のパン生活が攻撃的(猟奇的?(笑))であるならば、

札幌での私のパン生活は、実に保守的(定番?)である。

今でも、あまり札幌のパン屋さんは開拓していない。

「近くのパン屋さんで十分」という気分になってしまうのだ。

それこそ、近くにあるからこそ美味しいパン屋さんたちである。

こういうときはあまり「東京パン」と比べたくないのだ。



…なので、これまで、小樽にある「あの店」に行く機会がなかった。

…そして…明日。ついに味わうであろう、石窯のパンを。



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すっかり満腹状態で家まで雪道を母と並んで歩く。

年に数回しか訪れないから、私は地元に帰ってきたら、

一生懸命あたりを散策する。

新しい店ができたり、古い店がまだがんばっていたり。

幼いころから住む町には、一丁一丁歩くたびに、いろんな顔を浮かばせるものがある。

人生の半分がこの白く雪に埋没した風景に溶け込んでいるからだろうか。

…あの子は今頃なにをしているだろう…



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夕食は、ほぼ父のためだけのしゃぶしゃぶ。

私も母も、キノコとハクサイばかり食べていた。昼が堪えている。


甘いもの嫌いの父へのバレンタインプレゼントは、

自分の好きなものを贈るのが習わし。

結局私の胃袋に納まることがわかっているからだ(笑)。




札幌には、帰省以外に、出張で来ることが多い。

往復航空券を取るよりもパックツアーの方が手頃なので、

ホテル付きプランで帰ることが多い。出張の時などは特にそうだ。

夕食だけ家で食べて、ホテルに泊まり、

翌朝一番で自宅に帰ってきて朝食(あるいはホテルでモーニング)。

今回もこのパターンでの帰省。

どうせ明日は小樽の温泉旅館に泊まるわけだし…と、

意外とドライな娘なのである。


ところが、今回とった部屋はかつてないほどの場末だった。


新宿の地下コンコースにある、店鋪を持たない怪し気な旅行代理店。

だいたい、店員が日本人がやっていないという時点で怪しいじゃないか。

そこで、超格安パックをみつけた。

お店の韓国人のお姉ちゃんに掛け合うと、


「ヤスクテ スゴイ ヘヤ アルヨ。デモ オススメ デキナイヨー」


そう言われながらも安さで承諾したその部屋は

私が生まれる前からある駅前の超老舗ビジネスホテル。

古くてぼろくて壁が薄くて狭くて天井が低くて…。

それくらいなら、もっとひどい部屋はいくらでも経験している。

それでもこの部屋は、他では体験したことがないものだった。



「窓」がなかったのだ。



2月14日の夜を「窓」のないホテルで眠る私。

早く明日になってくれと思いながら床についた。



〜小樽編に続く〜