92.秋色ほっかいどうスロウパン・スロウカフェ




毎年この時期になると、故郷の北海道に帰る。

母方の実家のある帯広(正確にはその隣町)に帰るのだが

去年と同様、07年の今秋も寄り道しながら帯広を目指した。


思い出せば06年の帯広帰省は大変な目にあった。

そう、まさかの大雪! はじめての雪道運転を強いられたのだ。

あの旅も相当インパクトがあったけれど

さすがにもう雪道運転はごめんなので、

今年は例年よりも1ヶ月以上早い10月上旬に決めた。


06年富良野・十勝ドライブ編はこちらから*



金曜日の夜、旭川に到着。

市内に着く頃にはもう21時近かった。

この町に来るのも泊まるのも初めてなんかじゃない。

もう二度と来ないとも思ったけれど、

きっとまた来るであろうとも思っていた。



センチメンタルは、食べ物で取りあえずごまかすのが私流(笑)。

しかし、何にも事前に調べて来なかったので

旭川ラーメンでも食べるかと思っていたのだが

旅行パンフの割引クーポンリストを眺めていたら

むずむずと食べたくなって来たものがあった!



それは





松尾ジンギスカン(笑)。


なぜ「(笑)」かといえば、松尾ジンギスカンなんて

北海道のどこにでもあるもの。

(しかももっと美味しいジンギスカンはいくらでもあるし…)

東京暮らしの私がわざわざ旭川にきて食べるものとは違うだろう、と。


しかも、私

今夜ひとりなんですけど(笑)。



…しかし…

逆に言えば、郷愁の味でもある。

いや、味よりも「匂い」である。

小学生のころ、1年間だけ住んでいたアパートの隣に

松尾ジンギスカンがあり、そこから毎晩もくもくと

ジンギスカンのなんとも言えない食欲そそる匂いがただよってきていた。

(ウナギ屋の隣に住むのに似ている?)


店の前に立ち、店内からもうもうと出されるこの匂いを嗅ぐと、

なんともいえない懐かしさでいっぱいになって

躊躇なくのれんをくぐった。





そうして、ひとりジンギスカン(笑)。

ひとり焼肉なら何度も経験あるが、ひとりジンギスカンは人生初かもしれない(笑)。

でも、他にもひとりジンギスカンしているお客が2組ほどいる。

いずれも出張でやってきたサラリーマンって感じですが(笑)。


店のアルバイトらしき女の子も、

店のおっかさんも、とっても親切で、マメに焼き方をチェックしてくれた。

味は、お世辞にも「すごく美味しい」ジンギスカンではないけれど

私には「なつかしいうまさ」で十分だった。


ちょうど、テレビで「命の奇蹟!」みたいなドキュメンタリー番組をやっていて

それをずっと見てしまった。

ひとりでココに来ていることに、胸がむぎゅっとした。






翌朝!

まずは駅前でレンタカーを借りて、目的地をカーナビにセットする。

今日の日が暮れないうちに帯広に着きたい。

その前に行きたい場所がたくさん


まずはここから!

夕べのひとりジンギスカンに引き続き




…そう、「ひとり動物園」初体験である(笑)。



旭川に来てまで、旭山動物園に寄らないのはもったいない!

そのへんがどーにも貧乏性なんで(笑)。


旭山動物園は、私が道民だったころには全く無名の動物園だった。

しかし近年、映画化するほどに運営努力を重ね、今や全国からお客さんが殺到する人気動物園!

ああ、私の地元の円動物園よ、負けずにがんばってくれーー(笑)。


旭川から帯広までは車で4時間近くかかる。

途中、あちこち寄り道したいので、動物園は11時までには出たいのだ。

開園9時半に合わせて、9時すぎに到着すると

もうすでに大行列が!!! うわ…噂は本当だった。すごい人気!

列に並び、マップを片手に、はや歩きで園内を歩いた。





園内は結構広く、くまなく見ても1時間以上はたっぷりかかる。

ひとつひとつ動物たちに足をとめてシャッターを押しているから余計に(笑)。

キリン、カバ、さる山、チンパンジー、どこも見せ方がユニークで面白い。





みんなのお目当てはやっぱり、ホッキョクグマ館!

すごい人だかりで、写真を撮る場所を確保するのにタイムロス、

ホッキョクグマがなかなか水にもぐってくれないのでタイムロス(笑)


ようやくクマくんがざっぷーんと水に潜った!

おおお、なんていうでかさ…へたくそ写真では溺れているように見えますが(笑)、

ほんとにカラダがでかくて、足の裏の肉球なんて、私の顔くらいある!

思わず、ひとりで来ているのにも関わらず歓声をあげてしまった。


今、温暖化でホッキョクグマが絶滅の危機にさらされているというけれど

こうして、本物のホッキョクグマを見るのとそうでないのは

実感の沸き方が違うなぁ。守ってあげたくなる。





猛獣館ではトラやひぐま、ライオンたち。





そしてみんなのアイドル!!!

皇帝ペンギンたち。

もぐもぐタイムが終わって一度引っ込んだあと

またでてきた、わーん、ペンギン大好き





わらわらでてくるーーー!

わーん、かわいいーーーー!



ほぼ一通り見て、旭山動物園を退散!

いやー、やっぱりたっぷり1時間半はかかってしまった。

ひとりであることを忘れるくらいに夢中に駆け回っていた(笑)。


さあ、目指すは美瑛の丘!

お目当てはとあるパン屋さん!






旭川から南に数十キロ、美瑛に入った。

前回は一面の銀景色だったために何もみえなかったけれど

秋は秋なりに美しい田園風景が広がっていた。

…でも…

なんか、この道、覚えがあるなぁ



と思った瞬間に目に飛び込んで来たのが

見覚えのある赤い建物!





ああ! 前回、臨時休業(?)だったために断念したLand Cafeだ!

そっかー、去年と同じ道を通っていたのか。


本来行くはずのパン屋さん、その後には、もう一軒カフェでランチを

するつもりだったのでこのカフェでランチするわけにはいかないけれど

メニューをみると、本日のランチは「かぼちゃとポテトの煮込みスープ」と。

おお、スープなら…ランチかけもちできるかも!(笑)





かわいいログハウスの中は、席数がそれほどないとはいえ常に満席、

しかも後から後からお客さんが絶えない。


出て来たスープは、かぼちゃとジャガイモが溶け込んだスープ。

自然な甘さで味が濃くてものすごく美味しい…!!!

ああ、すごく美味しい。なにげなく入っているじゃがいもの美味しさに目がばっちり覚めた。

とにかく野菜そのものの美味しさが感動的だった。





うわー、、、ほんとにこの野菜たち、買って帰りたいなぁ…。

本気でそう思ってしまった。








続いて…今回お目当ての初パン屋さん。

看板が指す方向へ車を走らせる。





おお、ここだ! いくつかログハウスが集まっている。





「あるうのぱいん」。

国産小麦と天然酵母、しかも手ごねで作るパンのお店。

カフェでは、チーズフォンデュなんかもいただけるそう。





小さな店内はところどころに手作り雑貨。

そして、小さなパンたちがかわいらしくこんにちは。

わーっ。ほんとにかわいらしい…!


今回はこれから帯広へ向かうため多くのパンは持ち帰れない。

でも小さいから3個くらい選んでも大丈夫。

コーヒーと一緒にテラス席でいただいていこうと、

店の外に回ったら





うわぁ…!


絶句…!

こんな素敵なテラス席だったなんて…!

目の前に広がる緑と青い空!

すごく素敵な空間…!





9月の北海道にしては温かい日射しだったので

とても気持ちよくお茶をすることができた。

パンは、レーズンくるみも、クランベリーチョコも、じゃがいもベーコンも、

どれもとても優しく、コシのあるやわらかさ。

かといってぼんやりした味わいではない

きちんと旨味のある美味しいパン!


自然派カフェって、日本全国どこにでもあるかもしれないけれど

北海道のはまた格別だなぁ…。

だって、地平線を感じられるのは北海道だけのものの気がする。






どうにか、日が暮れる前には帯広に着きそうだ。

ちゃんとここでランチを食べる時間は確保できそう!

車はさらに南下して、美馬牛までやってきた。

そう、もう駅付近まで来たらカーナビは必要ない。





1年ぶりのGoshさん!

ここで食べたお料理とパンとコーヒーにまた会いに来た。

この北の大地で数少ない、本気のパンに出会える店だ。





今日はパンを買って帰ることはかなわないけれど、

じっくり眺めさせてもらって…目でおなかいっぱいにさせてもらって(笑)





店内は、昼下がりなのにお客さんでいっぱい。

前回訪れた時は大雪だったので、私ひとりきりだったことを覚えてる。


今日オーダーしたのは、特製のビーフシチュウ。

ついてくるパンセットのうち、私がやっぱりお気に入りなのは

じゃがいものパン(ポム・ド・テール)!

やわらかくてほのかな甘さがあるんだけど、ぱつんっとしたコシが好き。





バラ肉をやわらかーく煮込んだビーフシチュー。

こちらの一番人気だそう。

ここに来るまでに結構あれこれ食べたもののちゃんと美味しく最後まで完食!


そして締めは、もちろん、丁寧に抽出されたコーヒー。

前回の教訓で(笑)、コーヒーは食後に出してもらって正解。

帰りがけには、コーヒー好きの母へのお土産に

豆をひいてもらった。イイ香りが車の中で香る。


今回のドライブは温泉に立ち寄る時間はないので

その分、スロウなカフェのコーヒーとパンでゆっくりと。

運転中にすぐに眠くなる私にはコーヒーが一番なのかもしれない(笑)。






夕方、日が暮れる前には帯広に到着、車を返車し

母に車で迎えに来てもらった。

その夜、私がリクエストした晩ご飯は


「焼き秋刀魚」だった(笑)。


スーパーに母と買い物に行くと、

釧路で水揚げされたばかりの新鮮な秋刀魚がなんと1匹58円!

祖父のお得意の自家製無農薬野菜と秋刀魚。

お金をかけなくても、私には極上の晩餐だった。






駅の本屋で北海道のスロウカフェの本を立ち読みした。

幕別町の田園の中にぽつんとケーキの美味しいカフェがあるんだそうな。

母を誘って行ってみることにした。

運転はもちろん私。

小さい頃、何度もこの国道を通ったけれど

かつて母が運転していたときにスピードオーバーで

つかまったことを覚えている(笑)。

ついついスピードオーバーしちゃうんだよね、北海道の道は

恐い恐い。


「あら、きっとそのカフェ、お母さん一度行ったことがある」

と母。でも、そのときは閉まっていたんだそう。





見落としそうなほど目立たない看板を見つけ

一軒の民家に入って行った。

目の前には田園風景が広がる。

建物はごくごく普通の民家なのだけど





足を踏み入れてため息が…。

濃い色の木材のフローリングと統一された家具。

白壁にはアーティスティックな現代絵画が飾られ、

ダウンライトの照明。ここが幕別町とは思えないほどのセンス、

とても外観からは想像もつかない





ここの女性オーナーさんが、もともとケーキ職人だったそうで

手作りのケーキが数種類、ディスプレイされている。

このケーキの見せ方も都会的で洒落ている





そして、店内で唯一の田園風景を眺められる窓際の席。

視界を遮るものがない、ただただ広がる風景に圧倒される





先日の中国四国旅といい

決して便利とは言えない場所にあえてカフェやパン屋さんが増えている。

自分の得意とするものを作り、お客さんをもてなすことで

…こんな場所で生活していけるなら…

都会の便利さをすべて捨てていける勇気が今の私にはないけれど

だからこそそんな生き方に憧れてやまない


道産子の私には見なれた風景ではあるけれど

こういう風に眺める風景は、懐かしさとはまた別の思いが膨らんで行く。





ケーキが出された。

和食器にコーヒー、そして胡桃のタルト。

コーヒーは酸味が効いてものすごく私好み!!!

ケーキは、実はもっと田舎風の、やぼったい手作りケーキを想像していたのに

それはまったくの誤解だった。

本当に美味しい…!

都会でいただく、本物のケーキに遜色劣らない、いや、それ以上!

本当に美味しくて、母と私は目をまんまるにさせていただいた。





モンブラン風のシフォンケーキも、

和食器とのコントラストが実に美しく





食いしん坊母娘は、あまりに美味しいこちらのケーキを

2種類だけでは飽き足らず、杏のタルトも追加オーダーしてしまう。

これもほんっとうに美味しくて

中にフランジパーヌのような、アーモンドの層が杏とベストマッチ、

「こんな田舎でこんなレベルのケーキが食べられるなんてね…」

母と私はとにかく感心してしまったのである。








この後、近くの十勝川温泉に寄り道。

ちょうど今の時期に、鮭の遡上が見られる千代田堰堤に寄ってみた。

真冬には、その昔、祖母に連れて来られて白鳥をよく見に来たっけな


観光客がたくさん訪れているわりには、鮭はあまりはっきり見えない。

「昔はその辺をちょろちょろと鮭が泳いでいて、ぴちぴち跳ねていたのに」

母はそういいながらも、ぴしゃっと稀に飛び跳ねる鮭をみつけては

「あそこあそこ!」とはしゃぐ。おお、ほんとに跳ねてる


鮭は、色気ないクレーンの網で水揚げされてしまう。

あれでは、なんか鮭を水揚げしているというよりはただの工事風景にしか見えぬな



子供の頃、よく祖母の仕事で連れて来られた十勝川温泉の某ホテルで

入浴をし、帰りは車を運転して家に戻った。

今夜一泊だけ父が来ているので、家族揃って晩餐だ。

せっかく入浴を済ませて来たけれど、しっかりジンギスカン(笑)。

しっかり食べて、しっかり飲んだ。

今年の帯広、最後の晩餐だ。






翌日、夕方の飛行機の前に、父と帯広市内でプチデート。

行ってみたいラーメン店が広小路にあるのだ。




寂れた広小路で唯一行列のできる店(笑)、

人気のラーメン店である。





とても丁寧な接客をする、家族総出でやっているようなラーメン店。

特製みすずラーメン(私は味噌)は、モヤシをオイスターソースや豆板醤で炒めて

載せた、どこか中華料理的なオリエンタルな味わいの辛口ラーメン。

これがすごく美味しかった…。


帰りに六花亭でお土産を買って、藤丸で惣菜を買って

父とのプチデートは終了。

特にその間、なにもしゃべってないんだけど(笑)。



祖父の自家製野菜を持てるだけ手荷物に入れて

また来年くるからね、と、言葉を発さぬ祖母に挨拶をする。

できるだけ側にいたいけれど、年に1回しか来られない私は

ほんとに家族不幸ものなのかもしれないな。

年から年中、旅ばっかりしているくせにね






年に1度の秋帰省。

欲張りな私は、きっと来年も寄り道を重ねて

北海道の素敵シーンを撮り続けるだろう、味わい続けるだろう。

今回出会えたスロウなカフェで心の休息を与えに

秋の北海道旅は、もはや私の一部になりつつある。

2007.10.5〜8