60.湯河原3月 ブレッドと花とサーカスと
60.湯河原3月 ブレッドと花とサーカスと
初めてのB&Cさん来訪ストーリー'05秋はこちら
05年に出会えた数々のパン屋さんたち。
中でもとくに「これは、出会いなんだ」と、
そのパンたちと同じくらいに大きな物語の始まりを感じてしまったお店がこちら、
湯河原ブレッド&サーカスさん。
ただ一度の来訪だったのに、そこから今日のこの日まで、
なんと素敵な濃厚なおつきあいができたことだろう。
マダムのあたたかさに何度心を温められただろう。
そういや店に行かずして、もうすでに6回くらい食べている。
時にお土産をいただいたり、時にみなで取り寄せたり。
そう、誰もがこのお店に憧れている。
最近ますます人気沸騰なのだ。
だから開店時間に合わせてあの大きなパンに会いに行こう!
大らかなあのパン屋さんに会いに行こう!
小田急線で小田原まで行き、そこからJRに乗り換え。
時間はかかっても交通費セーブは基本である。
それにしても小田急線で行く小田原、めっちゃ遠いな!(笑)
そりゃそうだね、湯河原は関東の最西端なんだもん。
でも、小田原からはあっという間だった。
海!! 一面にひろがる大平洋!
よく東海道は通るけれど、考えてみたら私はいつも18きっぷ。
真夜中に夜行で通るか、よだれたらして爆睡しているかのどちらか。
じっくり海を見たのは久々だ。わぁぁ…!
湯河原から2つ隣の根府川という駅のホームは海の景色を遮るものがなにもない。
…そうだった。湯河原は温泉のイメージがあるけれど
海風が吹く町でもあったんだね。
*
湯河原の駅に到着するとたくさんの観光客がぞろぞろと下車した。
えぇ? 湯河原ってそんなに流行っている温泉街なんだったっけ?(うわ、失礼)
ま、まさかこの人たち全員B&Cさん目当てだったりしないよね?(それは杞憂にすぎなかったが)
連れの2人は私より一本先に着いていた。
遅れて登場した私を捕まえるなり、指をさした。
「これ行こうよ! 梅まつり! 今やっているらしいよ」
[湯河原梅林 梅の宴]
おぉ! 梅が今は満開なのね?!
だからあんなにお客さんが湯河原に来ているんだね。
もっちろん行く行くぅー!
じゃあパンを買ってそこでお花見しながら食べよう〜!
換気口からむわっと場末な臭いを出す(笑)パチンコ屋の角を曲がり
八百屋さんを通り過ぎたころに見えてくる赤い窓。
思わずたたたたたっと駆け寄ってしまった。
開店11時とほぼ同時に入る。すでにお客さまが数組ご来店。
わぁん、マダムだ、ごぶさたしてます!
でもなぜでしょう、ごぶさたしている気がしないのです。
長い時間を経た蔵書のように並べられたパンたち。
大きく大らかに、私たちを待っていた。
わぁん、目移り必至、どうしようどうしようどうしよう〜。
トレーを持ったままくるくる回っている私たち。
焼き菓子系を取りあえずしっかり押えつつ、大きなパンはやっぱり慎重に。
どれ分ける? どれを買う? どうするどうする?
ところが…後から後からお客さんが入ってきて、たちまち満員御礼。
あっという間に列がなし、大変なことに。あわわあわわ!
あれこれ伝えたいことがあったのだけど、この混雑ぷり! すごいな。
ほんっとに忙しそうで大変そう。がんばれがんばれ〜!
ほいじゃ買い物が済んだ私たちとりあえずお店を出ちゃおう、
去りがたいけど、後ろ髪引かれるけど、今は去ります。また来ます〜。
*
駅からは梅林までバスも出ているのだけど
乗り合いタクシー(1人350円)の方が安上がり。
乗り場のチケット売りのおじいさんが私たちに声をかけてきた。
「タクシー350円ね。チケット先ね。チケット先に買って」
なんだか、かなーりもうろくしてらっしゃるチケット売りのじいちゃん。
買うにもおつりをもらうにも一苦労、私たちが今、チケットを目の前で買ったというのに
「チケットね、先に買って。350円ね」
と、まだ売ろうとするおとぼけじいちゃん。
おーい、じいちゃん大丈夫かよぅぅ。
あのね。今買いましたってばぁ★
まだ私たちの車はこなさそう。
「まだタクシー来ないですよね? ちょっと飲み物買って来るんですけど
次ぎ私たちが乗る車、待っておいてもらってくださいね〜!」
じいちゃんに念を押した私たち。
「はいはい、はいはい、」
その間ほんの2、3分。ビールを買って売り場にダッシュで戻る。
お、ちょうどタクシーが来たよ!
「私たちの車ですよね、ほいじゃ乗りますねー」
するとまたおじいさん、
「はいはい、タクシーね。チケット先に買って。350円」
「今買ったばかりですよっっ私たちっ!(笑)」
思わず連れとじいちゃんに同時ツッコミ。
見事なまでにボケとツッコミが成功した瞬間だった(笑)。
タクシーが走ること15分くらい。山の小道に入り、民家を抜け、梅林に到着。
入場料200円を払い、入場。
あいにくの曇り空だけど、山麓に広がる梅林!
しまった、細いヒール靴履いてきた私。よろよろしながら山を登る。
わーん! 梅と山がきれい! 湯河原の梅! 春だよ春ー!
まさか花見ができるなんて全然思ってもいなかったので
それだけでテンションが高い私たち。
笑えるのはどこからか、三味線のメロディーが流れてくるところ。
特設ステージで日舞を舞うイベントがやっている。わはは。
湯河原だねぇ〜(笑)温泉地って感じですから!
パン食べたいよ、ビールがぬるくなっちゃうよ。
花より団子だ、早く落ち着ける場所を探すべしよ!
はいはい、ひとまずカンパーイ!
さぁさぁ、どれからパンを食べますか!
(B&Cさんちのパンの中では)比較的小さめのハード系、クルミのパン。
なんか、山の風景と一体感があるでしょう。
でも、もしかしたら背景が温泉でも、海でも、きっと似合っていると思うの。
だってここは海と山と温泉の町、湯河原なんですから!
ざくざくざく…むっちりと跳ね返すようなクラム。むちむち!
細かく入ったクルミが一定のリズムでこりこりこりっと鳴る。
はーーー♪ 美味しいよぅぅ〜!
焼き菓子たちはB&Cさんちのマストアイテム!
前回感動しまくったグラマラススコーン。
食べても決してグラマーにはなれないけれど(笑)満足度がグラマラス!
ジンジャーマンクッキーは甘いジンジャーたっぷりのバタークッキー。
ここの焼き菓子は、しっかりと甘みと脂肪を美味しい分まで入れてくれる。
想像以上にナッツがたっぷりのオートミールのチョコチップクッキー。
先日友達からお裾分けしてもらい感動したフルーツホーンを
我が手で買う喜び(笑)。
先日友達からお裾分けしてもらい感動した(ってこのパターン多いぞ)
パーフェクトシナモンクランチを予約しなかったために空振り、
そのピンチヒッターとして発見したリンゴシナモン。
パイの中にリンゴとシナモン(説明端折りすぎだろ)。
代打で満塁ホームランというのは実にかっちょいいことなのである。
チョコレートポランタと同んなじくらい大好きなハーマントッシュ!!
ショートブレッドのような、バターたっぷりのほろほろした生地に
把握しきれないほどのいろんなベリーたちをスタッフ。
どちらも水分はほとんどなくて乾きもの同士なのに、
なんなんだろ、みずみずしく感じてしまう。肌の内側がうるおってくるのかな。
他にも買ったパンを切っては食べ、食べては高らかに叫び、どんどん温かくなっていく!
周りを見渡せば、梅祭りの屋台で売られている蕎麦などを
すすっている人が多いけど、まさかここでナイフ持参でパンパーティーやっているなんて
私たちだけかな。知らないのかな、パンとお花は最高の相性ってことを!
さてと、お腹も満たされたし心もぱんぱん。
乗り合いタクシーつかまえて駅に戻ろうか。
その前に、直売の果物を買って行こう。
この辺りはまるで地中海かというほどに柑橘類が庭先でとれるらしい。
(B&Cさんちでも、庭にレモンがなっているんだそう!)
試食をもらったのはかぼすみたいに小さいのに、ゴールデンオレンジ。
レモンや文タンなど買い込んで…。
*
夕方から用事があるので2時には湯河原をでなきゃならない。
あぁ〜これで温泉も寄れたのなら完璧なのに! くやしいよ。
だけど、あそこに寄る時間は残されているよね。
そう、もう一度。
そろそろ空いているであろうB&Cさんに「ただいまー」と!
狙いはビンゴ! お客さんの波がひいて私たちだけだよっ!
でもパンがもうだいぶ売れてしまった。あぁ、11時に来て正解だったねっ。
しかも、今、大好きなB&Cさんのバゲットが焼き立て!
これ、初めて来訪したときに頂いた田舎風のバゲット、これが一番美味しかったんだ。
どのパンよりも、このバゲットが…!
マダムもさっきゆっくり話せなかったことを残念に思ってくれていた。
えーん、よかった。温泉寄らなくてよかった(笑)
マダムが奥から呼んできたのは、初めてお会いするムッシュ!(って勝手にそう呼ばせてもらうぞ)
元建築家だというムッシュ、どこかで見たことのあるような芸術家に似てらっしゃる…。
独特の雰囲気のムッシュ。私が思ったのは…。
そう、うちの祖母や祖父に似ているの。顔が、じゃなくて。
※うちの祖父母は雑貨屋をやっておりお菓子やジュースなどを売っている。
とくに表情は変わらなくても、歓迎してくれているのが伝わってくるというか。
多くをしゃべるわけじゃないけど、愛情表現がきっと似ているんじゃないかな。
ほらほら食べなさい持って来なさいみたいな(笑)。
口癖のように「もう隠居。」とムッシュ(笑)。
どこまで本気なのやらちょっとつかめません(笑)。
今すごく忙しそうだけど、もう少しその時期を先にのばしてほしいな。
だって…私がこのお店と知り合ってからまだ日が浅すぎるのです。
…なーんて、勝手なことを言っちゃいます。
でもくれぐれも無理をなさらずに。ご自愛ご自愛。
それにしても、私たちを驚愕させちゃうお二人の行動(笑)に
あわわあわわしてしまう私たちだった。あわわあわわあわわ…。
小さなパンたちも焼き菓子ももちろん美味しい。
だけど…大きな大らかなパンがやはりこの店の味なんだと。
そう思う。
ひとつのパンを大事に必要なだけ、必要なときに食べる。
みなで分け合い、分かち合う。
その豊かさをまるごとひっくるめて
この店のパンの味なんだと、そう思う。
このお二人が焼くパンには、「パン」以上のなにかがこめられている。
それは、感謝? 祈り? 心? 慈愛?
それはそれであり、それだけではなく…
そういうものをひっくるめて、「パンを焼く」と言うこと自体に
意味があるように思えてならない。
その惜しみなさ。
そのこまやかさ、まめまめしさ。
見返りを期待しない、無償の愛。
すべてが「パンを焼く」その意味にリンクしている気がしてならない。
そして私たちは「パン」を通じて、この店に出会えるのだ。
出会えたこと、神様に感謝したくなる。
それは、ごくごく自然なこと。
花をみて心が安らぐくらい自然なこと。
海をみて心が踊るくらい自然なこと。
パンを食べて心がとろけるくらい、自然なこと。
*
両手一杯にパンと果物を抱えて湯河原を後にする。
「今日はほんとに最高の一日だったね!」
でもでも! 3度目の正直、次回こそは温泉も…!
それだけが私の心残りなのです(笑)。