46.白いパン工房の通販パン@神戸
46.白いパン工房の通販パン@神戸
私は自称「現場主義」。
パンはどんな場所にあろうと、直接お店に買いに行く主義。
「遠くの名店の翌日パンよりも、近場の焼き立ての方が美味しい」
これが私の持論。
それでも気になるパンがある。
神戸の評判の通販パン屋さん。
「あわよくばいつか食べられたらいいな」
「あわよくばパン屋さんに会えたらいいな」
そんな矛盾した願いを叶える方法は…。
そのパン工房は阪急線の沿線、高架のすぐ側にある。
引っ越ししたてという工房には、もちろん看板などはない。
なぜなら、ここはパン工場(コウバ)。
店を持たずに、全国に宅配で届けられる通販専門パン屋だからだ。
まるで雑誌オリーブにでも出てきそうな内装。
白くペイントされた木の壁に、エレクターシェルフ。スポットライト。
そして強く「生」を印象づける観葉植物のグリーン。
これがそのパン屋さんの工房だ。
オリーブ世代の私には、こういうインテリアの部屋に住みたくてたまらなかった。
工房の事務スペースには、梱包作業をしているスタッフの方たちが。
厨房から、ひょっこり顔を出したのは店主のMさんだ。
まるで人形のような愛嬌のある方だ!
初めましてっ、東京から来た物好きですっ。
今日はどうもお世話になりますっ!
なのに私はバカなことを思わず聞いてしまった。
「わぁぁ、年季が入った工房ですねー。この窓とか、昔の図画工作室みたい!」
バカだった。この工房に「引っ越したばかり」って、
さっき話していたばかりなのに(笑)。
「雰囲気がありますねー」
そういうことを言いたかっただけなのだけど(笑)。
これから全国へ発送されるパンたち。
パンたちはきちんと乾かされてからひとつひとつ手作業で梱包される。
夕方の宅配便の集荷に間に合うように。
いよかんトーストやカンパーニュ、黒パン…。
PCの画面を通じてでしか見たことがなかったパンたちが並んでいる。
その奥からはパンのいい匂いがただよってくる…。
この工房は、ナチュラルなパンと、パンの焼ける匂いがなんて似合うんだろう!
確かな素材と昔ながらのパンづくり。
Mさんの美味しいと思ったものを作る。それが結果的に体にも心にも美味しいパンだから。
こんなことを書いては失礼かな、
人なつっこく話してくれるMさんは
とても「田舎」が似合う人だ、と思った。
ゆるりゆるりとした空気の中で、自然に対して誠実なパンを焼く。
パン以外の自然に触れながらパンを焼く。そんなイメージを感じた。
そのとき感じた空気感は、後でみたHPで納得。
毎朝5時に起きてパンを焼いているという。
「え、通販なのにそんなに早起きなんですか!」
私は驚いてしまった。お店を持たないのだから、
そんなに早く起きる必要はないのでは、と思い込んでいた。
「普通のパン屋さんもそれくらい早く起きてるでしょ?」
Mさんは笑う。
夕方の宅配便の集荷に間に合わせるためには、
昼過ぎにはパンは焼き上がり、冷まさなくてはならない。
余熱をしっかりとってからでないと発送ができない。
だから、実店鋪を持たないこのパン屋さんも
太陽が出る前からパン作りを始める。
できるだけ作りたてのものを届けるために…。
私は今回、ほんの少ししか注文をしていなかったのだけど
こうして直接パンたちをみることができた興奮で一杯だった。
これはどんなパンなんだろう、
次はあれを食べてみたい、
やっぱり実物を見られてよかった…!
セ−グルノア。
ライ麦生地に、胡桃入り。
酸味がけっこう効いて、渋くてシャープな印象。
軽くトーストすると表面にまぶされたふすまがカラっと香ばしい。
こちらが作るパンは、通販にはもってこいだった。
宅配されるまで時間がかかるその間、
ライ麦生地が馴染み、フルーツが馴染む。
到着後は焼き立てとはまた違った美味しさに出来上がってる。
…うまくできているものだぁ…
いちくるバンズ。
思わずすぐにかじりついてMさんに笑われてしまった(というか呆れられた?笑)
たっくさんのいちじくとくるみが肩をよせあって
全粒粉とライ麦の素朴な生地に包まれている。
いちじくは溶けているタイプではなくしっかり堅さを残してる。
もちろん種のツブツブもしっかりと!
粗く砕かれたくるみのコリコリっとした食感。
噛みしめると酸味のある生地と具が混じり合う。
いちじくが、くるみが、イイ意味で粗野。
美味しさをそのまんま野放しにしている感じ。…言葉は悪いけど(笑)。
個人的には食感的にも香ばしさ的にも、ふすま効果に注目したいっ!
季節のパン。はしばみ(ヘーゼルナッツ)となつめの黒パン。
ねっとりとした甘さのナツメは黒パンに包まれることで、イイ具合にバランスがとれている。
表面にまぶされたケシの実の「和」の香ばしさ、ヘーゼルナッツのひとひねりクセのあるコク…。
とろけるようなナツメの甘さとこんなに相性がいいなんて!
あまりにこのナツメのパンが美味しくて、
この季節が続いてくれたなら、
近くで買えたなら、そう悔しさすら覚えた。
*
この小さな白い工房で、誠実にパンと向き合っている
人なつっこいパン職人さんに会えたこと。
これから遠くへ飛び立って行く「フライト前のパンたち」を眺められたこと。
それまで縁遠かった通販パンがぐんと身近に思えるようになったこと。
私の中でこれはちょっとした「事件」だった。
とびきり美味しかった季節のパン。
一期一会…なんだな、きっと。
だから、季節のパンを次も頼みたくなってしまうのかも知れない。
PCの前で、次のパンの登場を待ちわびてしまうのかも知れない。
そうはいっても私は「現場主義」。
作り手の顔を見てパンが買いたい。
できたてのパンを、買ってすぐに取り出してパクつきたい。
お店での引き取りが可能となった今、
頑固な私は、きっと次回も工房でパンを受け取りに行くだろう。
もちろん、よくわかってる。
誰もが私みたいに「現場」までパンを買いに
行けるような人ばかりではないということを。
そうしたくてもできない人もいることを。
そんなパン好きさんたちがたくさんいることをよくわかってる。
だからこそ…。
パンの到着を待つのが好き。
届けられたパンの箱を開く瞬間が好き。
作り手のぬくもりが溢れているようなパンを食べている瞬間が好き。
なによりも、パンが好き。
そんな、全国各地でパンの到着を待つ人たちのために
オンラインパン屋さんは今日も早起きをするんだろうな。
Mさんの人柄が全国のパン好きさんたちに伝わりますように。
* 待ち切れずに通販しちゃいました編はこちら *