40.続「日本のカンパーニュ」@立川





初めてこの店に訪れてから1年以上たっていた。

あれは2004年2月の寒い時(ESSAY13番を参照)。

再訪がかなったのは4月の半ば、あいにくの曇り空だった。

桜は散り始めているのに相変わらず花粉は舞っていて鼻はぐじゅぐじゅ、

しかも待ち合わせには遅れて、なんだかどたばたと西武立川の駅に降り立った。


 


2004年9月にこのお店はリニューアルしたという。

娘さんたちにパン焼きが継承され、溶岩を使った石窯に変わり、

営業日も増え、そしてあの古い蚕室を改装したカフェでパンを売るようになったという。


畑で取れた野菜がそのまんまパンになったような、

あの自給自足のパンたちはどんな風に変わったのだろうか、

はたまた変わっていないのか。再会を心待ちにしていた。





元カフェが現在パン売り場も兼ねている。

おぉ、野菜の直売も変わらずにやっている。

季節の野菜が少量ずつ、馴染みのある野菜から

聞いたこともないような変わった野菜まで、

娘さんがひとつひとつ丁寧に説明してくれる。

これから別のところへ行く予定で荷物になるのは

わかっていてもついつい買ってしまうのだ。


ちょうど、元パン屋さんの店主であるお母様も現れた。

「池袋の方から来ました」

「まぁ、そんな遠くからわざわざ…ありがとうございます」

なんだか照れくさかった。

だって私はどんなに遠くてもここにまた来たかったし

意外にもほんの390円で来られるんですよ。実は…。





(待ち合わせに遅れたので)先に到着してもらっていた友達らは

先にパンを買い、ちょうど会計をしているところだった。

あぁ、こういう風にレイアウトが変わったのね。


以前の雰囲気がとても好きだったので、

カフェの中でパンを売るようになったというから少し不安だったのだけど、

全然その心配は無用だった。

以前の雰囲気を全然壊すことなく、

飲み物も楽しめ、パン選びも楽しめ、そして食べることも楽しめる。

コーヒーとパンの香りに包まれたこの空間は、

以前にもましてパンを楽しみやすくなっていた。





かの野菜のカンパーニュもしっかり健在!

まるで巨大な抱き枕のようなカンパーニュをざくざくと切り分けて番重に入れていく。

…あれ? なんか以前と違う…のは、季節のせいなんだ!

そうか、今は春。以前食べた時は冬。

カボチャやサツマイモの入ったあのカンパーニュではなく、

今日は……えぇぇ?!

二十日大根? カブ!! 紫タマネギ〜?!

顔を近づけただけで、春野菜らしい苦みのある香りが鼻をつく。





買ったパンたちを席で頂こう。

酸味のある珈琲が好きな私には嬉しいトラジャとともに。

お友達は私も以前頂いたことのあるライスドリームを。お米の甘いドリンクだ。

 


お店が変わって、パンが変わった!

前回の画像と比べても一目瞭然だろう、パンが「ハード」になっている。

(*甘さはほとんどなくビターなココアとくるみのパンはソフト生地)

同じ「りんごのパン」をひとつとってみても、具はそのままに、パンの生地が違う。

パンたちの面構えをみていると、以前よりさらに富ヶ谷のあのお店に近くなっている気がする。

変わっていないのは、自家製の野菜をふんだんに取り込んだパンであること、

素材そのものの味わいを活かしたパンであること。


…でも、確実に「パン」としての存在感が強まっている。

…美味しい!! 正直な話、前よりも私の心を確実に捕らえてしまっている…!





具入りのパンの中で今回感動したパン。

手前はイチジクとクリームチーズ入りのパンとラタトゥイユのパン。

とろけるように甘いイチジクとまろやかなクリチ。

じっくり煮込まれることで野菜の旨味が最大限に引き出されたラタトゥイユ。

どちらも具が卒倒しそうな美味しさなのに、生地までもが…。

どちらもハードな生地。この生地がしみじみと味が深い…。





そして!! 泣きそうなほどに美味しかったのはやっぱりこれ。

野菜のカンパーニュ。くるみとカレンズは基本ベースで、

その時畑で取れた野菜がこんな形でパンに生まれ変わる。


生地が心底美味しい…!! クラストの甘苦い香ばしさにクラムの奥行きのある旨み!

そこに、苦みの強い春野菜たちだ。

カブやダイコンなんて水分が多いだろうに、不思議にべちゃべちゃすることなく

野菜自体に水分が閉じこめられたままパンに含まれている。

だから…口に含んだ瞬間に、じゅわっと野菜のエキスがあふれ出す。

それはまるでスープのように。野菜のお出汁がじゅわぁ…っと!

なんて濃い味の野菜なんだろう…!


もちろん忘れてはならないのが美味しさを引き立てる名脇役、くるみとカレンツ。

これが甘みとコクのバランスを取っていて味を調えてくれている。

…すごい! すごすぎる!



こんなに素敵な再会になるなんて思っても見なかった。

東京にある「田舎」には、町場では到底出会えないような豊かな美味しさがある。

とくにこの「野菜のカンパーニュ」はちょくちょく買いに来たい…!








感動さめやらぬその半月後。またまた再訪する機会が!

GWの中盤戦の五月晴れ!





たぶん、一年で一番いい気候の日だったように思う。

上着を着ていても暑くない。上着を脱いで肌をさらけ出しても寒くない。

電車を待つ間のホームにはいい風が吹いてくる。

(特に西武立川の駅近くには某パン工場があるのでいい匂いがただよっていたりする)


 


今日はひとり。パンを選んだ後、テラス席でトラジャとともにパンを頂く。

たくさんの緑に囲まれながら食べるパン。

東京とは思えないほどの贅沢な贅沢な休日の朝…!





今日はシンプルパンを中心に。

カンパーニュに胚芽パン。

これから会いに行く友達への土産はスコーン。

そしてもちろん…野菜のカンパーニュ。

これを買いに、またここに来たのだから!





前回は買い控えた大好きなバナナくるみパン。

どちらもこの店を語るには欠かせない存在。

とくにバナナくるみパンは中身の質感が独特だ。





バナナくるみパンは、なんといっても吸盤のようにぴとぴとと吸い付くようなテクスチャー。

湿らせたスポンジのようにみずみずしく、ほんのりとバナナの甘み。

生地のバナナはあまりに自然な甘さゆえ、

表面に乗ったキャラメリゼバナナの甘みが恋しくて、

ついついそこだけ優先的に食べてしまったりもするけれど。

これは以前食べたときの美味しさと変わらない。

やっぱりこれも「コレ目当てでここに来たい」と思わせるアイテムだ。





野菜のカンパーニュをまた買いに来た。

できたてを食べた時にも感動したけど、もっと感動したのは一日放置した後。

水分の多い野菜だから、冷凍はしない方がいいと思って

常温放置をしておいた。それが功を奏した!

野菜の旨味がなお一層生地に馴染んで、まさかまさかの美味しさ二乗!


期待通り、この間とは少し違う野菜が入っていた。

今日は二十日大根、かぶ、コールラビ、ほうれん草。

もちろんくるみカレンツが全体の味の調整をしてる。





ほんのり苦味を効かせながら春の香りを放散する、

なんてなんて不思議なパン。

ジューシーな天然のスープを貯えたかぶを太陽の光で照らしながら

しみじみとこのパンを噛み締める。


日ざしは日増しに強くなってくる。

もうすぐ夏が近づいているんだ。


夏の野菜はなんだっけ?

野菜のカンパーニュはどんな衣替えをするのだろう?

季節の変化をパンで感じられたらどんなに素敵だろう?


ならばここまで来たらいい。

ちっとも遠くなんかないよ。

だってここは私の住む東京都内なんだから!