21-2.炭水化物太平記 〜信州上田 日帰り18きっぷの旅《後編》〜



*前編はこちらから*



レンタルチャリンコで目指すのは、上田駅から菅平方面へ向かう144線でクルマで

10分くらいの峠のふもとにあるパン屋さん「穀蔵」。

地図の、等高線の高さから判断しても…いやーな予感はしていた。

絶対にこれは延々と坂道に違いない。

それでもチャリで行こうとする私。


じりじりと太陽が照りつける。日傘をさしながら片手運転していたけれど、

意外と腕が疲れることと、坂道続きになっていたので

日焼けどころではなくなっていた。


ついにチャリンコを漕げないほどの坂道に達したので

チャリを押して進む…。すまん「大将」。また巻き込んでいるねぇ。

しかしあんたは運動不足なんだからこれくらいやらないとさ(笑)。




 


たまたま途中で遭遇したのが「スィートローラ」という小さなパン屋さん。

水色のおうちで、遠目からも目立つお店だった。

パンの絵が描いてある看板をみてようやくパン屋さんとわかったのだ。

目的が他にあっても、素通りはできないのがパン好き魂(笑)。


パンはもう品数が少ない上に、クリームやチョコレートを使った

溶けやすいパンオンリーになっていたのでこの炎天下の中ではリスク回避。

非常に感じのいい奥様がお薦めしてくれたのがビアシュタンゲン。

なるほど、ビール好きの私達は人相にも出ていたのだろうか?(笑)

適度な塩っぱさのあとにくる、確かな粉の甘みが後をひく、

地味ながらもいいプレッツェルだった。


ここの奥様とはParisパン話で花が咲いた。

奥様はParisでクロワッサン10個食べ比べしたらしい(笑)。

その時の失敗話(?)や、Parisのパンの話を聞くと、がぜん目の色が輝く私。

また機会があったらこちらのドイツパンやフランスパンを食べてみたいな。




進めども進めども目的地には到着しない。

汗が滝のように流れ、日焼け止めは全部流れてしまったのではないだろうか。

バスでいったなら、レンタカーでも借りたなら、

あっさりと辿り着くようなところなのに、

なぜにこんな過酷な坂道を登っているのだろう?

そういや土曜日の午後はいつもジムに通う私。

今日もジムだ! と思えばこれくらい…と思いつつ、この暑さにはかなわない!!





ここが今回一番の難所。例えるなら「箱根越え」!!

歩くなら未だしも、チャリを引きずって登るのがしんどい〜!

「頭からざぶんと水をかぶりたい」と漏らす「大将」。

そんなとき、空からシャワーのような水が落ちてきた。




どうやら、上にはリンゴ畑があるようで、スプリンクラーが回っているようなのだ。

その水しぶきが下まで落ちてきているのだ。

一瞬だが突然の恵みの水に、思わず嬉しい悲鳴をあげた私達。

さっきまで熱風のように感じた風が、そよ風のように感じ始めた。

気持ちいい! 今はしんどくても、帰りはひたすら坂を下れるんだ。

さぁ、もうひとがんばり。チャリを押そう!


集落が見えてきたので、この辺りかしらと思って

チャリで徘徊するも、それらしき店は見当たらない。

それどころか…養鶏場があるせいで、

付近はパンとは懸け離れた匂いが充満している。

飼料場を目の前に、途方にくれ、お店に電話してみることにした。




どうやら微妙に間違った辺りを進んでいたらしく、

今登ってきた道を戻った方が説明し易いとのこと。

…ま、待って!(笑)やっとこさ登った道を引き返す?!

それは御無体なー!(笑)


ちょっとひと休みしようと、木陰に避難する。

そんなときに、またリンゴ農家のスプリンクラーを目撃。

おぉ、これだ! と駆け寄り、スプリンクラーのシャワーを追い掛けた。




画像では見づらいが、私達はずぶぬれになりながら

スプリンクラーの下ではじけていた。

最高の気持ちよさ! 子供みたいにはしゃぎながら鋭気を養う。

さぁ! もうひとがんばり!!






土壁が未だに残る小さな路地に入って行くと、

ようやく目的の「穀蔵」を発見!!

あまりの疲労で手ぶれしてピンぼけ画像しか撮られなかったが(笑)。


  

 

蔵造りの古民家を改装して、パン屋さんとギャラリーを併設したセンスの良いお店。

どこからか移り住んできた方なのだろうか。

都会的な香りも少しするのだ。

パンは天然酵母パンで、時間をかけて丁寧に作られている。

ドイツ系のパンがいくつか並ぶ。




お店の方はこれまた感じのよい方で、

汗だく&なぜかずぶ濡れの、ぼろ雑巾のような私達に

冷たい麦茶を差し出してくれた。





身体にすぅーーっと染み渡る。

冷たい麦茶を「ありがとう!(涙)その4」

なんて今日は良い人ばかりに当たるのだろう。


さきほどのルヴァンのパンとお蕎麦でパンパンだったお腹も、

あの「箱根越え」的なハードワークのおかげでだいぶこなれてきた。

お茶をいただきながら「マーマン」という甘めの菓子パンを半分ずつ齧った。

三角形の形で、キャラメリゼされたココナッツが表面に掛かっており、

ちょっとヒキの強い、ねちねちっと歯につくような食感。

キャラメリゼの風味が甘過ぎずとても美味しい!

たまにのぞくレーズンもアクセントになっていて、いいお茶菓子になった。




本当はドライフルーツ系のパンやマッシュポテト入りのパンなど

いろいろ手出ししてみたかったのだが、ルヴァンでしこたま

ドライフルーツ系をいただいてきたのでここはハードトーストを。

かわいらしく陳列されている姿にも惹かれたのだ。

気泡は縦に長い感じのヒキがあって、

非常に酸味が強いのだが、どことなくバターのような香りが付いている。

なかなか後をひく美味しさだ。後日トーストしていただいてみるのが楽しみ!


時間をみるともう4時!

1時間半もかかったのか…ここまで来るのに…。

でも、最高に楽しい「箱根越え」だった。

私がいつもいつも無茶なことをしようとしても、

「ホントに阿呆だねあんたー」と悪態をつきながらも

ちゃんと一緒に阿呆なことにつきあってくれて

しまいには自分が一番楽しんじゃう「大将」だ。

そして私がこう返す。

「あんたも好きねぇ」と。ほんとに物好きだ。




今日のパン屋さんめぐりはここまで!

もう1軒行けなかったお店はいつかの楽しみにとっておこう。


大分前から思っていたことだけど、

私はパン屋さんめぐりはなるべく車では回りたくない。

性格があまのじゃくだからだろうか、

車でいった方が良い場所には自転車で、

自転車でいった方が良い場所には歩きで、

わざわざ感を自ら演出して(?)行ってみるクセがある。


そりゃ歩きや自転車では時間も体力も掛かってしまうし、

車でなら5軒回れるところが1軒しか行けない。

それでも、それまでに出会う面白いことが山ほどある。

もしかしたら、私はパンめぐりが好きなのは、

パンに出会って食べる以外の、それまでのプロセスなのかもしれない。

そのプロセスが難儀なほど、私はがぜんに面白くなる。

そして、それを一緒になって「うちらって阿呆だよねぇ」と

面白がれる人と一緒だったら最高だ。



***



案の定、帰りの坂道は超ラクチン!! 気持ちいい!!

思わず両手放しにしたくなるほどに、風を全身に受けて坂を下る。

しかし…まさかの大事故が起こってしまった!!


何度か道路と歩道のつなぎ目で激しくバウンドして、


…そして…


籠の中のかばんのものが飛び上がり、全て宙に舞い

バラバラバラ−−っと雨のように落下し…

私は「何か」をひいた。乗り上げてしまった。


あわてて自転車を止めて散乱したものを確認すると、

よりによってひいてしまったのはデジカメだった!(笑)

モニターはひび割れ重傷(泣)。

かろうじて動作するけど、ズームのハンドルが潰れて接写ができない。

くぅぅ〜!! なんでよりによってデジカメなんだーー。

しかしパンだったらもっとショックだったかも?(笑)




別所温泉は真田の縁の温泉ということもあって、

ぜひとも「真田ごっこ」しに行きたかったのだが(笑)

電車で30分くらいの、少し離れたところにある。

すっかり汗も乾いたし、時間的にもないし、体力もない。

(自転車で行こうとしていた無謀な私達…)

別所温泉に行くのは今日は諦めようということになった。


「近場でいい温泉とかあるといいんだけどねー」





そんな矢先に目に入ったのが「日帰り温泉」の文字。

おぉぉ、なんてタイミングのいい!

というわけで、温泉で汗を流すことにした。


新しくて清潔な温泉だった。しかも600円程度。安!

脱衣所で着替えているところ、なんやら外で落雷の音がする。

まさかと思ったが、私達が温泉に入ったと同時に

激しい雷雨が降り始めたのだ。

露天湯での光景はまさに真冬の吹雪!!

こんなに激しい雷雨で露天湯に入るのは初めてだ(笑)。

(私は道産子なので吹雪の露天湯ならある)


…しかしタイミングがいいというか、

あのままチャリを漕ぎ続けていたらずぶ濡れだっただろう。

なんか、…今日はおかしいくらいにツイてる私達!!




降り止まぬ夕立ちを待つ間のマッサージチェア。

パンパンのふくらはぎを圧迫してもみほぐす。

極楽極楽〜!



***



さすがに上田城に行く時間はないので、

18時閉店まぎわの池波正太郎記念館へ飛び込む。

今日はパンがメイン、

サブメインが「真田太平記」だったはずなのに、

チャリンコでの「箱根越え」がほとんどを占めてしまった(笑)。

残り時間20分のつかの間の真田太平記。


実は17時で受付が終了していたというのだ。

ががーん! …と思っていたら、

親切な会館のおばさんたちが

20分しかないならゆっくり見られないと思うけど、

入館料はいらないからどうぞどうぞ!」とおっしゃってくれた!!


またか!!

今日、何度目の「ありがとう!(涙)」だろう?(5度目だ)

なんて上田の人って親切なの?!

人に親切にされると、自分も親切な人間になろうという気になる。

世界平和は親切&感謝から始まるよね!!

と、しみじみ感動しながら私と「大将」は駆け足で資料館を回った。


かつてはまった大型歴史小説がまざまざと浮かぶ。

真田太平記…鬼平犯科帳…たとえ20分でも来て良かったな!



***



そうして18時。2時間もオーバーしながら追加料金を取らないでくれた

レンタサイクルのお店の方々。本当にありがとう、と感謝しながら返車。

うーん、いい町、上田!

この後、軽井沢に戻って夕飯でもと思ったが、すっかり気に入ったこの町で

ゆっくりしようということで、夕食も食べて行くことにした。


駅前を散策するが、なんかピンと来るお店はない。

そういや、名物がなんなのか全然知らないので

(パン、のわけはないよなー(笑))

延々歩き回った挙げ句入ったのはお寿司屋さん(笑)。

考えてみたら「ふらり」と寿司屋に入ることなんて、二人とも初めてらしい(笑)。




地味な飲み屋街の中で、ひときわ異色な、すっきりとした雰囲気の外装だ。

「李白」というこのお店、特に寿司が食べたい私達ではなかったが、

「雰囲気も味の一つよね」ということでここに決めたのだ。



引き戸を開けると、おぉ、中も雰囲気良し!

カウンターに腰掛け、まずはビールをいただこう。



ジムで一日動いていたのと同じくらいのハードワーク。

最高に旨い! ビールが旨い!

ついでに、マグロの煮物も塩辛も莫久来も旨い〜!

(全部酒の肴だ)

 


にぎりは一人前しかとらなかったので、

大好きないくらとシャコで私と「大将」とで取り合いになる(笑)。

そこでお店の"大将"(紛らわしいな)が、にぎりを半分にしてくれた(笑)。

ほんとすんません、こんな食べ方間違ってるだろうけど(笑)。




まっぷたつにわけられたシャコにぎり


さらにまた取り合いになったのが、

金目鯛の焼き物についていたミョウガ(笑)。


 

「あたしが食うー」とぎゃーすか言っていたところ、

背後から見ていたお店のお兄さんが気を利かせ、

なんともうひと組ミョウガを差し出してくれたのだ(笑)。

うわーー! 「ありがとう!(涙)その6」

頼んだわけでもなく、物欲しそうな顔をしていたわけでもないのに、

そういうことをさりげなくキャッチして、

ささっとサービスできるお店って最高!

ほんの些細なことでも、すっごく大きな違い。こういう店が私達は大好きだ。




今日、いったい何度「ありがとう」とお礼を言っただろう。

「ありがとう」を言う回数と旅の楽しさは比例するみたい!

本当に楽しい旅だった。というか、やりすぎだろ(笑)。

こんなに楽しいなら、泊まってくればよかったのに、と思われるかも知れない。

いや、そうじゃないんだ。

この旅が「明日はまだ日曜日! 休めるんだ!」というところがミソなのだ。




19時47分上田発の新幹線に駆け込みセーフ!!

軽井沢〜横川間のバスはもうないのでやむなく新幹線を利用。

私は高崎で降りてそこから18きっぷで帰るつもりだ。

だって、本当にお金がない。

財布にはもう札がないのだ(笑)。

「貸そうか? 楽だよ〜東京までこれに乗ってなよ〜」と

誘惑する「大将」。

阿呆! 借りたって返す金ないわい。

それに、18きっぷユーザーには、ショートカット(ワープとも言う)は

プライド的に許せないことなんじゃー(笑)。



ルヴァンでもらったパンや、穀蔵のパンを車内で急いで切り分ける。

そして私は高崎で下車した。


ありがとう、大将。

あんたのおかげでほんと楽しい一日だったよ。

不精な二人はたぶんまた半年以上連絡取り合わないだろうけど(笑)

「あんたと旅すると何かしらおかしいことばかりだ、

毎回はカンベンだけど半年に一回くらいならつきあっても良いな」と

誉めてんだかけなしてんだかよくわからんコメントが返ってきた。



帰り道、ふと我に返った。

散々「今日は私達ついてるね!」と言っていたけれど、 すっかり忘れてた!


この旅のせいでデジカメが壊れたんだ!(笑)


あぅ〜! 18きっぷで行っても、

新幹線代ケチっても、大赤字じゃないか(笑)。