157-1.別れと原点回帰の関西ひとりパン旅

〜前編 さよなら岸辺〜






岸辺。


きっと、パン好きでなかったら…

駅も町の名前も知ることもなかった、

わざわざ東京から来ることもなかった、

名前を聞くだけでよだれが… いや、

胸がきゅんとなることもなかった、

そんな、大阪のひとつの町。


パン好きの聖地となって12年。

2016年3月31日をもって

この地を去り、大阪市内の北新地という新天地で

新たな歴史を刻むことになったル・シュクレクール。

地元のお客さんにはあまりに衝撃だっただろう。



この「この世にパンがある限り。」は

シュクレとともに歩んだといっても過言ではない。


実際、東京に住んでいるイチ、パン好きである私。

それほど出張が多いわけでもなく

稼ぎがとびきりいいわけでもなく

しかも今ではコブ付きパン好き。

チビ子が生まれてからは年に1回しか来られない。


そんな私が、過去30回近くも足を運んだのも…

岸辺にシュクレがある限り。

(↑これが言いたかった(笑))

そこにシュクレがあったから。

ただ、それだけ。




思いはたくさんこみ上げてくるけれど

とにかく、岸辺のあの赤い佇まいを

この目に焼き付けておかないと。

3月の関西行きはためらいはあるはずもなかった。




3月の三連休初日。

今回は悩んだ挙げ句、

「日帰りで、ひとりで!」

チビ子をパパに託し、朝五時に家をでて、飛行機で日帰り関西!


チビ子を連れてくれば泊まりもありだったけれど、

ママである前に、ひとりのパン好き。

(↑炎上発言(笑))

今回は、ただ、パンにひたすら貪欲でありたかった…




羽田6:30発、伊丹7:30着。

かつてチビ子が赤ちゃんだった頃に開拓(?)したルート、

空港→モノレール山田駅→タクシー。

これで、9時にシュクレに着く最短ルート!!




あえての遠目からのアングル(笑)。

そう、こんだけ何度も通っていても、

結局一度も隣の100円ショップ入ったことがなかったよなぁ(笑)


10年来の関西パン友と店で待ち合わせ。

スーツケースにパンいっぱい詰め込むために

関西から東京にパン買いに来ていたパン食人も今では二児のママ。

今日は下の妹ちゃんも連れて来て、はじめまして♡




ひっきりなしに訪れるお客さんたち。

でも、テーブル席はなんとか空いていた。

それが意味するところは…

やはり、近くに住む人に愛されていた店なんだ、ということ。





近年、改装したせいか、店内の風景は実は懐かしさ…よりも

まだまだ私には新鮮に感じてしまう。

でも、今日でお別れなんだよな。実感がわかない。


それはきっと、岸辺の駅がリニューアルしたとき。

(あの長い地下通路との別れ)

お店が10周年で大幅リニューアルしたとき。

確かに、これまでも何度かプチ別れのフェーズを味わって来たからかもしれない。


そうなんだ、「シュクレのパンとの別れ」ではないから。

シェフとお別れでもない。シェフとの友情はこれからも変わらないだろうし

北新地に移っても私はシュクレに通うだろう。


なので、パンはいつもと変わらないくらいの量(むしろ控えめ)を買った。

意外と、あっさりしている自分がいた。




でも…窓際の席に座ったときに気がついた。


ああ、この窓から眺める、この景色とパンは、本当にお別れなんだ。

店内からの風景でもなく、

並ぶパンたちでもなく。

そう、私がシュクレで長く過ごした、窓際からのこの風景こそが

私のシュクレの思い出そのものだったんだな…と。

無性に…無性に寂しくなった。

別れの実感がようやく湧いて来た。




だから、あえてクロワッサンにしてみる。

焼き上がる前から窓際のカウンターで

店内に立ちこめる甘い香りを丸ごと吸い込みながら


焼き上がりを夢中になってほうばっていたクロワッサンを。

この日のはちょっとふんわり気味だったけれど

なんかもう、そういうことはどうでもよくて。


あえて、お向かいのGSもフレームインさせてしまう(笑)

隣の紳士服店も、ファミレスも、ほとんど変化がないのが

また…胸に込み上げてくるものが…




●あおさのパン

これ凄い。アンチョビにも加勢されたあおさは強烈な磯の風味で、

太平洋よりも日本海(父方のルーツ)を思い出させます(笑)


●パン・ダニス・ オ・フレーズ

見た目イチゴとバラ(!)が花咲く可憐な少女のようなのに、

アニスの強烈な二面性に瞠目。




ほんと、変態パン作らせたら一番だな。

いや、大阪2か(笑)。


地元のお客さんにとっては、「シュクレのない岸辺」をどう受け止めて行くのだろう。

他では穴埋めできない、大きな大きな喪失感。


でも、大きいのは喪失感だけではないと思う。

この町での12年間は、間違いなく町を、人を、変えたに違いない。

シュクレという店が与えてくれた、

パンと生活、

パンと日常、

パンと人生(これは私か)

そういう置き土産こそが大きいのでは…ないかな。


きれいごとかもしれないけれど…





古いパン友と懐かしい道を歩く。

時には、ひとりで。

時には、友と。

時には、相方と。

時を経て、我が娘と。

雨の日も、ぎらぎらの猛暑の日も。


「なんども落ちそうになった、側溝」

「なんどもおちそうになった、側溝」

(卒業式の呼びかけ風に)





たぶん、今日で最後になるね。岸辺の町も。この道も。

パンとお別れするわけではないのに、

青春と呼ぶにはもうそんなに若くはないのに。

失うものの大きさを噛み締める、踏みしめる。

とびとびだけど、その年月は12年。悲しくないわけがないよね。





さて、気を取り直して(早)

岸辺の後は、もちのろん、中之島のパリアッシュ♡

考えてみたら、もうすっかり中之島のパリアッシュ。

本町時代の思い出もそのままに、

しっかり自分の中で歴史を刻み始めているパリアッシュ。





 すごい賑わいで、まだ昼前なのにパンも売りきれ続出。

ありすぎても悩みが増え るのでちょうどよい加減か?(笑)





昨年の真っ赤な花美ちゃんエスカルゴも

記憶に新しいけれど、

今回はエスカルゴ・プランタン

濃厚に香るイチゴ生地に、ピスタチオクリーム。




京都に向かう前に、ついついオープンエアで

かぶりつき☆




マンゴーフロマージュが今年も名前変わってた。

「今年のマンゴーフロマージュ」って(笑)


春らしいパンが花盛り♡

買ったパンの羅列状態になるけれど

備忘録に…右下から


・パン・ド・ブルトンヌ

(ドライリンゴ、ホワイトチョコ、シナモン。

アッシュが作ればリンゴパンもただのリンゴパンじゃなくなる!)


・向日葵(ひまわり)

(ゴッホのひまわりをイメージしたパンだそう。

バナナとパッションのピュレを練り込んだ生地に、

ドライバナナ、カシス、サワークリーム)


・睡蓮

(画像左下。言わずもがな、モネの睡蓮をイメージ。

カシスとチョコとサワークリームのパン

両者ともカシスが主役になっているのに、とても対象的。

向日葵が陽で、睡蓮が陰。美味しさは甲乙付けがたいのに)


・早い春のルーロ

(さつま芋、ドライみかんとシナモンのライ麦パン

ミカンが鮮烈で金柑かと思うほど濃密)


・くぐもった空のようなカシス

(お得意の謎掛け的セーグルフリュイの派生版(笑)

カシスを練り込んだライ麦生地に、

マンゴー、イチゴ、リンゴ、イチジク、オレンジピール、カシューナッツ

フルーツがどれも美味しすぎてパンということをすっかり忘れてしまいそう!)






アッシュでは絶対欠かせない、クラシカルなフランス郷土菓子シリーズ。

一見シンプルなクグロフ・アルザスィエン

バターリッチで温め直すと…ひえーな美味しさ!!

かつてアルザスでクグロフ食べ歩きしたことがあるけど、

こんなに美味しいクグロフ、本場でもなかったですよ、シェフ(笑)



シュクレが移転する先は、皮肉にもアッシュと徒歩圏、しかも同じダイビル系!

これまで、岸辺と本町(中之島)と、どう移動するか、時間配分をどうするか…

時には片方を諦めなきゃならない時もあった。

それでも、パン戦略を練るのがひとつの楽しみだった。


これからはその心配はないなんて…

嬉しさ反面、やっぱり寂しさが今は勝っているかもしれない。


だって、日本で一番好きなこの2つのパン屋さんに

東京から足を運ぶ私にとっては

岸辺と中之島の間は、たいした距離ではなかったからだ。



シュクレの移転は5月以降とのこと。

今はまだ、どんなお店になるのかも

どんな展開が待ち受けているのかもわからない。


でも…

「岸辺」とはこれでお別れだけど

シュクレとのものがたりは、まだまだ長く、続いていく。

それだけはわかっているのだ。

この世にシュクレがある限り。

(↑これが言いたかった(笑))



後編(京都)につづく*



2016.3.19