13.浜松

とある8月の灼熱の日。

訪ねるところあり、浜松へ行って来た。

食べ物目的ではないにしても

食べ物ありきの旅にいつのまにか変貌させてしまう、

この恐るべし「ただでは転ばない」主義!

…しょうがいないじゃない? 私なんだもん(笑)








18きっぷで行くものだから、5時台に東京をでないとならない。

品川発のこの電車に乗るには…最寄り駅は始発が間に合わない(笑)

そこで、なぜか渋谷までタクシーで行く羽目に(笑)。

あのー、、、タクシー代考えたら、新幹線でいったらどうでしょう?(笑)

…いやいや、そういう問題ではないのである。

夕べは一睡もできなかったので

電車の中で爆睡する予定。






浜松が目的であっても、なぜか静岡清水で下車。

まだ8時ちょい過ぎだっただろうか。

ここでレンタカーを借りて、静岡はクルマで移動する。

徹夜明けでそりゃリスキーではあるけれど






目的はすでに、清水のとあるパン屋さんだったのである。


県立美術館のすぐ側、東海道線なら草薙駅が最寄りのこのパン屋さんは、

伊勢原某店での経験がある方が開いたというパン屋さん。

ここへ来るため「だけ」に、静岡でクルマを借りたのである。

灼熱の太陽は、まだ朝9時だというのに、ぎんぎんぎらぎら私を照りつける。

うわ、日傘忘れたし!






…闇…

ううーーわ! 夏休み?!(笑)

わざわざこの店のため「だけ」に、清水下車してクルマ借りたのに?!

…定休日はチェックできても、夏休みをチェックするのを怠るのが

私流と申しますか(笑)

…こういう時くらい、我流を捨てるべきなのでは?!(笑)

泣くに泣けない。ていうか、お腹空いて…参った…







代替案は全く考えていなかった。

朝パンはおろか、朝ご飯すら食べられずに

清水を去る…。登呂遺跡は周りからぐるっと眺めただけでほぼスルー(笑)


あぁぁ、お腹すいた…。

高速を飛ばしながら、つくづく静岡の広さを痛感する。

なんてつまらないハイウェイなんだ!!!(笑)

飽きて眠くなるじゃないか!!!(笑)



1時間半後、浜松到着。

もう12時ちょっと前だった。

浜松…といえばウナギ、だろうか?

いや、友人に「とんかつの旨い店がある」とタレコミを受けた。


「うまいとんかつを食べるため」

旅の目的がいつのまにかすり変わっている自分に

不謹慎だとかツッコミを与える隙はなかった。

空きっ腹だけは残されていた。

その店にいくことが第3の旅の目的になっていたのである。


…もちろん「今日やってますよね?」と電話を入れたのは

一軒目のパン屋で玉砕した後である…。







浜松の中心地にある、幸楽というとんかつ屋さん。

どこかのドラマのラーメン屋のような名前であるが(笑)

ここのとんかつを食べた人は決まって「とんかつの概念が変わった!」というそうな。

とんヲタ(とんかつオタク。…私の俗語(笑))なら誰もがいったことが

あるであろう、名店なんだそうだ。






小さな、カウンターだけの店。

開店直後だったので、客は私くらい。

カウンターに乗る食パンは、パン粉用とのこと。

その場でパン粉を挽くそうなのだ。


「さっき電話くださった人?」と、やさしい女将さんが迎えてくれた。

大将は、風貌はそれはそれは取っ付きにくい感じなのであるが、

ひとたび口を開けば、あれこれとんかつについて語ってくれるのである。


メニューを見た瞬間に、ハッと思い出す。

それは、とんかつ屋にきて、致命的なことを


「私、豚の脂身が食べられないのだ」

ということ!!!(笑)


私は豚の脂身が天敵で、子供の頃からヒレカツしか食べなかった。

(贅沢とかそう言う問題じゃなくて(笑))

オトナになって、だいぶ食べられるようになったが

(少なくとも、口に含んだ瞬間にリバースということはなくなったが(笑))

確か、この店のとんかつは、映像を見る限りは恐ろしく脂が乗りまくっていた。

まだ豚の脂身を克服し切れていない私でも大丈夫か?!

それとも、ここは安全パイ狙いでヒレカツか?!

ポリシー曲げて海老フライへ行くか?!(笑)


「うちの脂は大丈夫だと思うけど、もしダメなら、取り除いていいからね」

大将が思い掛けない優しい気づかいをしてくださった。

うわー、、、申し訳ない、、、でも、大将を信じてみるよ!

「とんかつの竹、ください!」






注文を受けてから肉を切り、卵にくぐらせ、パン粉をつけて、

低温でじっくり長時間揚げる。

詳しいことは忘れたが、ひとつひとつの行程にものすごくこだわりがあり

結果、揚げたとんかつは、脂が滴らないのだという。

ほんとに、脂や汁気が外にでていないし、下に網とか敷かないでもカラッとしている。






おもむろにカメラを使おうとしたら

大将が「写真を撮るならねぇ」

と、私を遮って来た。うわ、す、すみません?!


「こうやってずらして断面を見せるといいよ?」

箸でわざわざ断面図を出してくださった(笑)。

うわはははは(笑)、恐縮です、大将ーー。





しかし、まだ赤く色が残っているんですけど(笑)

肉汁がじゅわわーーっと、溢れているけど、流れ出さない。

汁が、肉の中で留まっているといった感じなのだ。

この脂身には、脂身が大敵な人間にはきびすを返したくなるほど(笑)

でもでもでも、…食べてみる!!!



…いや、大丈夫!!!

この脂なら食べられる。うまい!

とんかつの味付けはシンプルに塩胡椒なのだが

ここのはとんかつの味付け、というよりも肉自体がうまい。

(正直、とんかつの概念が覆る体験は私にはできなかったのだが)


「私、ラーメンのチャーシューとか角煮とか、

食べられる脂と食べられない脂があるんですけどね、

ここのとんかつの脂身なら食べられます、不思議と!」


そう大将に告げると、

「肉の旨さは脂なんだけどね、こういう豚が手に入りにくくなってね…」

そう、延々大将に「とんかつとは何ぞや」を語られまくる私である。

…かなり熱く長く(笑)


いやー、さすが貴重な豚肉、ここの脂身は食べられます、

それだけでもすごい事だと思うのです。

「ダメな脂身・人間センサー」の私が食べられたくらいですから(笑)。


本音をいうと、やっぱり、私は脂身の経験値が低いので(笑)微妙なのだが

とんかつ好きにはもっと有り難いんだろうと…。

いや、静かに熱い大将と優しい女将のいいお店でした。

この辺りでお花屋さんはないかと尋ねたら、

地図まで書いてくださって。恐縮ですっ。






昼には浜松中心地を離れたにも関わらず

今回の旅の目的を終え、下山したときには

もうすっかり日は傾いていた。



浜松で返車して、それからまた18きっぷで東京に戻るつもりだが

…その前に、やっぱりパン巡りはしておかねば帰れない、悲しいサガ(笑)



まずは、市内郊外にあるパン屋さんを目指してみた。

さっきは恐ろしいほどに狭い山林を、命がけで運転していたので

大丈夫だったが、のどかな田舎道を走っていると、

猛烈な睡魔に襲われる。

あぁぁ…命がけ(笑)。





もう17時頃だったので、パンはあまり残っていなかった。






天然酵母のソフトなパンと

アップルパイ、そしてプチクロワッサン。

クロワッサンは、バリバリっとハードで厚手。

こういう、噛み砕く感じのクロワッサンは好き♪

アップルパイのフィリングとクリームも、自家製とのこと。








もう一軒を目指して、クルマを走らせていたら

一軒目のパン屋さんからそれほど遠くないところに

突然パン屋の看板を見つけて慌てて左折。






田園の中にある、かわいらしい一軒家のパン屋さんを発見した。

ドイツパンや、カラダによいパンたちが評判のお店らしい(後で調べた)。

おとぎ話にでてくるような絵や、店構えにどこかセンスを感じる。

親切な女性が「もう品揃えもなくなってしまって…」と言ってくださる。






大豆とライ麦とひまわりの種の入った生地に、イチジクとクルミがまぜ込まれた

ケルナーブロート。しっとりと、若干の粘りもあって口当たりがいい!

ひまわりの種とイチジクの組み合わせにクセがあり、印象的。









最終目的のパン屋さんは浜名湖の側にある。

その佇まいを見てみたかったのである。

「魔女の宅急便」をイメージした(というかそのもの再現?!)

パン屋さんであるのだが、…なるほど、遠くからでもその存在がわかる!






が、しかし

やはりここも夏休み(笑)。

うーわ、なんか学習能力ゼロだわさー(笑)

でも、まぁ、佇まいを見られただけでもここは良しとします。。






駅前のレンタカー屋に向かうまでの間、

猛烈な睡魔に、スイマーがクロール

信号で止まるたたびに、頭ががっくんがっくんフライングしていたのだから

よくぞ事故らなかったとつくづく思う(笑)。

レンタカーを返車して、東海道線に乗り込んだ。

昼に食べたとんかつのおかげか(笑)夕御飯いらず。

大将は「うちのとんかつの脂は消化がいいから、お腹すくよ」

そう言えばそう言っていたなぁ、

でも、もうなんだかウナギは食べる隙間も時間もありません(笑)。




今日一日おつかれさま。

おつかれさま、今日の私。

ほんとに元気だよ、自分。

呆れるほどに元気だよ。

食欲に、楽しむことに、生きることに貪欲だと思う。

他の人が「楽しい浜松旅行」に見えたらそれがいい。

それが今の私。


おつかれさま、今日も一日おつかれさま。

今日からまた一年……生きて行こう。




…おつかれはこのあとの5時間の各駅停車で

さらに悪化されるのである…。

さすがにカラダに堪える、浜松18きっぷ往復旅。